2-3
「馬鹿な!!この俺がこうも簡単にやられるとは・・・っ!!」
グランウィングに持ち上げられ、落とされて大破したALT−EDO1番機コックピット内で彼は気を失う直前にそう言った。
「片がついたな。」
グランウィングがゆっくりと地面に足を下ろす。
戦いは幕を閉じた。(もぉ、なんで止まっちゃったの?)
ALT−EDOとの戦いを終え、アルティノはヴァルキューレロートの自動メンテナンス機能を使う。メイン動力炉の停止は、何故起こったのか。それを知るために。
―――各部正常、メイン動力出力0%――― |
数分後、ステータスモニター表示されたのはそれだけ。結局彼女の望む情報は一切得られなかった。
(やっぱり博士がいないとだめなのかしら・・・)
こうなってはお手上げ。ヴァルキューレロートを始めとしたアームドセイバーシリーズの生みの親、ジャン=クライフという名の博士の偉大さが身にしみて分かる。
−−−−−もう一つ気になることがあった。カイ=セトウチ。その名を何処かで聴いた事があるような気がする。あれは、確か−−士官学校での講義の中ではなかっただろうか?思い立つとアルティノはヴァルキューレロートのデータベースにアクセスする。教科書程度の情報ならば基礎データとしてそこにある筈である。
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(彼のことなの?・・・まさかね。大体、生きている筈ないし。)
だが、彼女は確信が持てずにいた。以前、重力制御のシステムには時間軸の因子を内包していると博士に聴いたことがある。ならば、ここ、いや、"今"は"過去"なのかもしれないのだ。その可能性を彼女は否定する術を持たない。いや、持ってはいた。この場所の空間座標は、地球ではない。そればかりか移住可能と予測されたばかりの惑星上なのである。ここで彼女は人という存在に触れた。これは、彼女が"未来"に存在しているということに成りはしないか。
(どーなってるのよ?)
矛盾が多すぎた。
ベルという娘のE−brakerという機体は見た限りではアームドトルーパータイプ・・・つまりは第2次アームドアーマー技術革新後に生産されたディギアンフェードドライブ搭載型の機体である。この機体が存在する時代にカイ=セトウチの乗るヴァリスゲイヤーは既に存在しているはずがない。よく出来たレプリカとも考えられるかもしれないが、それでも内燃機関で先ほどまでの戦闘をこなすことができるのはオリジナルである証明になっている。
加えて、眼前に倒れているALT=EDOは、どうやらGAA以前のAAつまりはワーキングアーマーに毛が生えた程度の代物。それはその弱さから見ても確実なことだった。
さらに、グランウィングや、DRのような大気圏内での飛行能力を有した機体はアームドセイバー、もしくはアームドウォリアークラスということになる。DR、ブレードの装甲が同僚の機体カンナカムイのシェルシステムと似ているように見える。つまり、この場所には彼女にとっての"未来"と"過去"が入り乱れているのだ。
(いったい何が起こっているの?)
「何でなんじゃぁ!!ワレッ!なんでワシを狙うんじゃぁっ!!」
ヴァリスゲイヤーの外部スピーカーから聞こえるカイの叫びは、アルティノの思考を止めるのには十分すぎた。
(なに?)
メインカメラが映す外部の世界には、E−brakerのキャノンがヴァリスゲイヤーに向けられる様があった。
『忘れ・・・ザザ・・言わせないっ!!ザザ・・達SFSが居なけ・・ザザッ・・・ママは・・パパだって・・・」
ノイズに紛れてベルの声が通信機から聞こえた。
「わすれたも何も知らん物は知らんてさっきからゆっとろぅがぁっ!!」
キューンッ
ヴァリスゲイヤーの対ビーム処理された装甲の表面でキャノンのDFビームが弾け散った。
(ちょっと、またやってる!?)
思う間も無く紫色の機体−−ブレードが二機の間に割って入った。
「そっちの白い人ぉ!なんだかよくわかんないけどその・・・えっと・・・何だっけ?えーっと・・・、"その物騒なもの"を引っ込めなさいよぉ!!じゃないと私たちRRRと戦わなくちゃいけなくなっちゃうんだからね」
確かあの機体に乗っているのはサイアとか言った娘だったか。
「邪魔するの?なら・・・貴方も・・・墜すっ!!」
キャノンが光の弾を放つ!!
「危ない!!」
グランウィングがその姿を人のそれへと変え、既のところでブレードに体当たりし入れ替わった。
「がぁぁあ!!」
ロックされた変形機構を作動させた上、キヤノンの一撃を受けたのだ。機体のダメージを痛みとして操者のフェードバックさせるその操縦システムのためハヤテの体に激痛がはしる。それは常人ならば死んでいるかもしれないほどのものであったに違いない。
グランバスターは、片腕と反対の片足を失いその場に倒れた。突進を受けたブレードも無事ではすまなかった。機体のダメージにこそないに等しいがその操者は気を失っている。「これはやりすぎかな。そろそろ止めた方が良いかな。」
事の経緯を少し離れてみていたフェリアンがE−Brakerの後方に回り込もうとしていた時・・・
「よーわからんが、もういいわぃ。分かったけぇ、関係ないもんをまきこむな。殺るんならワシをやらんかい」
カイはハッチを開け、その身を・・・生身をさらけ出した。
(ちょ、ちょっと・・・いくらなんでも無茶よ・・)
「よい覚悟ね」
「ワシャぁ漢じゃけんのぉ!!」
E−brakerのキャノンがカイのロックされる。
(間に合って!!)
ヴァルキューレロートが加速する。
(間に合わない!?"彼"が本物なら取り返しが・・・)
E−brakerのゴーグルの奥で双眸が光った、そしてキャノンからビームが発射・・・・されなかった。
「エネルギー切れ?いえ、違う、何故?」
ベルの問いに応えるものは居ない。
(サンキュ〜。)
フェリアンはE−brakerの中のベルではない"存在"に≪聞こえない声≫で"お願い"を聞き入れてくれたことに礼を言った。
(どうなったの?でもとりあえずはなんとかなったみたいだし・・・)
「ベルさん、聞こえて?」
DFドライブの干渉派による指向性通信でアルティノは呼びかける。
『アルティノさん?貴方まで・・邪魔を?』
「落ち着きなさい。彼の今していることは何?貴方のしようとしていることは?」
『私はSFSを許しはしない。そのためなら・・・』
「カイ=セトウチ、この名前に聞き覚えはない?」
『彼ならそこに・・・』
「そうじゃないのよ。なら、国際平和会議第3代の議長の名は?」
『・・・』
ベルは記憶の糸を手繰り彼女はその名前にいきついた。
『カイ=セトウチ・・・じゃあ彼は!!でも・・そんな筈は・・』
「"彼"が本物か否かはこの際どうでも良いことよ。問題は貴方のしようとしていること。」
『私の?」
「そうよ。貴方の"正義"のだけのために別の"正義"をすべて否定しようとはしていない?それでは・・・」
『SFSと同じ・・・』
「正解。なら貴方の今すべきことは・・・?」
ベルの瞳に涙があふれた。
(私のするべき事は・・・)
「なんじゃぁ?殺るんだったらはよぅせんかい!!いつまでまたせよる!!」
カイが吠えた。
『ミスターカイ=セトウチ。私の負けよ・・・』
ベルはカイにそう告げるとキヤノンをヴァインダーに戻した。
「はぁ?」
カイは自分の知らないところで起こったことに戸惑っていた・・・・
(お人好しの集団ね)
正直なところそれがRRRについて説明を受けたアルティノの感想だった。
彼女自信を含め、カイ、サチヲそしてベルまでもRRRの一員として受け入れるという。
ベルのために重傷を負ったハヤテでさえ「分かってくれればそれで良い」と言ったのだ。
この未知の世界・・・いや彼女たちにとっての遥か未来で、生き残るために自らの機体の整備や、食糧などを含めた補給をすることが出来るの事はとても有り難いことであったし、"戦争被害を食い止める"と言うRRRの掲げる理念は彼女やカイ、そしてベルの"正義"と反する所はない。
アルティノは、差し出されたリーダーシオリ−ナ14世の手を握り返すことが出来た。
それは、カイも同じだった。ただ、ベルは自らのしてしまったことに答えを決め兼ねていた。
・・・戦うのは恐い事。
自分に資格はない。
何故、人は戦うの?だけど・・・
自分のためにサイアさんは・・・
どんっ
思いに耽ったまま通路を歩いていたシィキはベルとぶつかった。
「す、すいませ・・・君のような人と出会うなんて自分は幸せです。どうですこれからお詫びの印に自分と食事でも」
さっきまでのシィキは居ない。そこに居たのは単なるナンパ師だった。
「私、そんなに大した人じゃないのよ。ただのピエロよ・・・」
半ば自分に言い聞かせるようにベルは応える。
「そ、そんな事無いですよ。貴方は奇麗ですし・・・」
必死になって自分を口説こうとするシィキの姿がベルにはおかしかった。彼女の所属する組織グランドクロスでの同僚ウィッグとシィキが重なって見えたような気がした。ベルが落ち込んでいた時彼の口説き文句に何度救われたことか。もっともそれに応じるようなベルでもなかったのだが。
「はい。そこまでっ!!」
シィキの耳を引っ張っている手の先に彼はサイアの顔を見つけた。怒ったような顔をする彼女の頭には包帯が巻かれている。
「さ、サイア・・・さん?自分は・・・」
「なにしてんのよ。まったく君はぁ〜。ナンパも良いけどその前にすることあるでしょ。」
「なっ、何を・・・」
「君の代わりに出ていって怪我しちゃったのっ。指し当たってはあたしの看病をしてね。」
サイアはそのままシィキの服の襟を掴んでずるずると引き摺るように引っ張って通路の奥へと歩いていった。
「美しいお方、せめてお名前を〜」
「ベルよ。ベル=ファーシェスっ」
ベルは二人が見えなくなる直前にそう叫んでからシィキが言った"美しいお方"と言う言葉に返事してしまった自分に気がつき、一人顔を赤らめた。そしてもう一つ。彼女の心に響いた言葉を反芻した。
(その前にすることがある・・・か・・)
ベルは、いまし方サイアが出て来た医務室の扉をたたいた。
それからベルは、自らが傷付けた人・・・カイ、ハヤテに謝罪した。ハヤテは、「俺が好きでしたことだ。謝る必要はない」と不器用ながらいった。カイについては1時間もの間彼の"友愛"についての語りに付き合わされただけで済んだ。そして・・・
『アルティノさん、貴方が止めてくれなかったら私、取り返しの尽かない事をしてしまうところでした。ありがとうございますっ』
「吹っ切れたみたいね。これから宜しくたのむわ。」
『はぃっ!!』
ベルが去った後、アルティノはその日の出来事を日記に記し筆を置くとふと呟く
「ありがとう・・・か。軍では聞けない台詞ね・・・」
みずからの言葉を何処かで聞いた事があるような気がしたが思い出せなかった。
こうしてRRRに新たなメンバーが加わった。
これから先アルフォースに何が起ころうとしているのか。それを知るものはまだ居ない。
だが、一つだけ言える事がある。
明日を夢見る事の出来るものは必ず未来を手にすると・・・・追記:シィキ、トイレ掃除一ヶ月のペナルティー
以下の文章執筆 嵐堂 流 氏
<JCL艦内>
「ポイントC−66YEにおいて、時空振動の痕跡をキャッチ。ASX−004の残したものだと思われます」
長身の青年がモニターに流れるデータを確認し、その結果を報告する。
「彼女らの情報にあった、アルティノさんの消えた地点と一致しますね」
やわらかそうな栗毛をした、子供のような青年が言う。
「トレースするのかい?」
黄色いバンダナを巻いた、褐色の肌の女が言う。
「決まってます。研究結果をここでむざむざ失うわけにもいきませんからね」
栗毛の青年が笑顔で応える。
「とか言って、ホントはアルティノの事が心配なんでしょ?」
「そ、そそそ、そんなわけないですよ!」
「隠したってムダよ、おねーさんには。まったく、こんなに頭いいのに、ウブなんだから〜♪」
「トレース完了。ポイントG−6322QAにおいてASX−004の存在を確認」
長身の青年が、二人の問答を気にもとめず報告。
「G−6322QAって……惑星の圏内じゃない。結構な距離があるけど、なんだってそんなトコに?」
「い、居場所が分かったのなら、さっそくASドライヴィングに入って……」
「ただし、この時間軸上ではありませんが」
「……」
沈黙。
「……」
黙考。
「……」
待機。
「なら、作っちゃいましょうか」
「へ?」
「ちょうどこの次に、ASドライヴィングの応用で多重時空間の航行を実験しようとしてたんです。その理論が確立できれば、いわゆるタイムトラベルという現象も、人為的に起こすことができる……と思います」
「『思います』は『思います』でも、ドクターの『思います』は『確実です』って言っているようなものですよね」
「そうよね〜。なんだってあなた、毎回毎回そんなに……」
「では、早速準備に取りかかりますから。ベスさん、ラージャさん。その間、『彼ら』を頼みますよ」
「はいはい、任しといて〜♪」
「ドクターも徹夜ばかりせず、行き詰まったら気分転換してくださいね」
「分かってます。では、とりあえず『彼ら』には一週間自由に、と伝えておいてください」
<同艦内>
「う〜〜〜〜」
ぢゅるぢゅるぢゅる。
「……」
「う〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」
くちゃくちゃくちゃ。
「……おい」
「う〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」
にゅぱにゅぱにゅぱ。
「お前達、少しは静かにできないのか?」
「ヒナはそうかもしれんけどよ〜、俺は黙っとられんのよな〜」
ざりざりざりざり〜。
「そこを抑えられるようになることこそ、修行だと思わんのか?」
「思わねえよ。俺はお前の百倍は感情強え〜からよ〜」
ずずず〜。
「そうか…… まあ、お前の修行不足は今に始まったわけではないしな」
「ところでリディア、さっきから何食ってんだ?」
「にいさまとくせいの、ちょーきょだいばくれつぼーそーパフェなの。おいしいの」
『爆裂暴走?』
ディックと姫菜が頭に疑問符を浮かべようとした瞬間、部屋は爆炎に包まれた。
「や……やっぱり……」
「ラージャ殿には、もう少しまともなものを調理願いたいものだな」
「にゃはははは〜☆ みんなまっ黒コゲなの〜☆」
こうしてJCL、『ジャン=クライフ研究所』の一日は過ぎていく……
アルフォース英雄伝外伝
ロボットサーガ第2話
〜SFS〜
完