「素子の濃度が限界を超えた。もはや時空秩序の維持は不可能となってしまった。」
『いたしかたあるまい。代行者として出来ることはもはや我らには無い。』
「重なり合う時空。こんなことが許されてよいのか」
『もはや賭けるしかあるまい、あの技術に…』
「第三銀河人の封印された技術か…」
アリアカンテ級巨大戦艦トリモグラーIIは、その母なる地、ル・オーラ王国のレジスタンス(R.R.R.)秘密基地のドックでメンテナンスのため眠りに就いていた。全長600メートルもある巨大な戦艦。むしろ移動要塞と呼ぶべきか…
アリアカンテとは、元々かつて星の戦士がアルフォースの大地にやってきた時、彼らを運んだ巨大な鳥を示す言葉である。その羽ばたきは嵐を呼び、その鳴声は大地を震えさせたと言う。トリモグラーIIがこのアリアカンテの名を冠すのは単に巨大であることだけでなく、勇者を運ぶものであると言った意味合いが込められていた。その乗組員が勇者たる者か…それは後のの歴史が示すに違いない。
「艦長…かーんちょー!」
その声に返事はなかった。薄暗いドック木霊が帰ってくるだけだ。
「おっかしいなぁ。チャンプの奴何処行ったんだろう?」
シィキ=ベレズフォードは辺りをしばらく捜すが、その艦長、チャンプ=ヴォルフレイムの姿は何処にも見当たらなかった。
「なにしてんの?」
「わ、何だ?!」
突然に後ろから声をかけられ、驚くシィキ。
「なんだは、ないでしょ。せっかくゆっくりできそうだから買い物に行こうと誘おうと思ってたのにぃ」
甘えたような声の主…サイア=ウエスギ…普段はブリッジでオぺレーターをやっている女性である。
「さ・サイアさん…。じ・自分とですか。」
「不満でもあるの?」
小悪魔的な笑みを浮かべながらサイアはシィキの頬に手を当てる。
「ぜ・全然…不満を言ったら罰があたりますです…」
こうなったらもうサイアのペースである。シィキは、女好きでいつもナンパばかりしてはいるが、実際成功した試しはない…つまり女性にとことん弱いのだ。
ろれつは回らなくなり体は硬直する。自覚をしていないのかそれとも…それでも懲りずにナンパをするのはまったく大した物である。
そんなシィキを面白がっているのかサイアは時折今のようにシィキに誘い掛けるのである。
「ねぇ、シィキ。そう言えばさっき誰か探してたみたいだけど…」
「あ・あぁ、かんちょーを…なんか暴れたそうだったから付き合おうかなぁーなんて思ったりしたりして…でも、いいっす。サイアさん…買い物に行きましょう!」
今度はあきれたような顔をするサイア。当然である。元々チャンプは格闘家であり“炎狼風牙流”の伝承者である。そんな漢のうっぷん晴らしに付き合おうと考えるシィキは、彼女の目には間抜けと映るのだろう。
「いや、もしもあいつが爆発したら…サイアさんもただじゃ済まないかもしれないかと思って…」
問い掛けられてもないのに弁解するシィキ。
シィキは、人が死んだり、怪我をしたりするのを極端に警戒するような性格である。彼にとってその行為はごく自然なものであったのだが、今度の場合は取り越し苦労になることは間違いない。いくらチャンプが怒りに感情を支配されたとしても女に拳を向けることは絶対にありえない…たとえその相手が敵であり、チャンプに剣を向けていたとしても…
「シィキはやさしいね。でもチャンプ君だったらさっき慌てて一人出ていったわ。なんだかよくわかんないけど…」
“やさしい”の一言にたちまちシィキの強張っていた顔はみっともないぐらいにとろけ、危うくサイアの前で鼻の下が4倍ぐらいに延びそうになるが、はっと思い出す。チャンプはとんでもない方向音痴であったことを。その事をサイアは知らない。彼女がチャンプと知り合ってからチャンプは常に誰かと行動を共にしていたため気づかなかったのだが、彼と付き合いの長いシィキにとっては心配の種の一つであることに間違いはない
「一人で行ったのか?…まあ、いいか。」
チャンプが迷子に為ってしまうという一抹の不安を覚えつつもシィキはそれを振り払った。花より団子…いや、男より女である。シィキにとって友情よりも色恋のほうが圧倒的に優先される。
シィキは女好きだった。
「くそっ!シィキもチャンプも友達がいのない奴等だ。」
ハヤテ=アシュフォードは滝壷から岸へと泳ぎつつそんなことを考えていた。ハヤテは修行の相手を頼んだ二人にあっさりとすっぽかされ、その結果滝に向かって一人修行をするはめになっていた。もっともチャンプに関してはすっぽかすつもりがあった訳ではなく単にこの場所にたどり着くことなく例によって何処かで迷っているのだが…
ドッバーン
「何!!」
ハヤテのすぐ横に巨大な岩が飛んでくる。間一髪躱すもののそれは次々と落ちてくる。
「覇」
無数の岩に一つがハヤテの体に直撃すると思われたその瞬間、彼の背中に光に翼が現れ水面から飛び出した。ハヤテは背中から“刀”と呼ばれる曲刀を抜きその大岩を切り裂く。
刀の刃が白く光を帯びている。
「まだまだ甘いな。男児足るものいつ何時たりとも気を緩めるな!!」
滝の上からの声だ。
次々と落とされてくる大岩を足場にし、あるものはその刀で切り裂きまたあるものは拳と脚で砕き、ハヤテはその声の主のところにたどり着く。
「グースリーさん!!」
グースリーと呼ばれたその男はその鍛えられた肉体に似合わない眠そうな顔をしていたが、瞳の奥からハヤテを見る眼光は鋭く光っていた。
「どうやらその刀、竹光ではなかったらしいな」
その言葉にハヤテは淡く光るみずからの刀に目をやる。故郷の町イシュタルがウェストリア黒の機士団によって滅ぼされた日、彼の祖父から譲り受けたその刀は、今まで一度も抜けたためしがなかった。真なる武具はその使い手を選ぶというが、この刀はまさにそれであったのだろう。無心の境地がハヤテに刀を抜かせた。
ハヤテは刀をさやに納め、グースリーの前に跪き頭を下げる。
「貴方に教えを請えるとは…身に余る光栄です。。」
いつになくかしこまるハヤテ。
グースリー=ネール。
彼こそは降魔大戦の英雄の一人であり機甲神テンロウリョウガの元の乗り手である。ハヤテがこの男と始めて出会ったのは、丁度2月前になる。
ル・オーラのレジスタンスにハヤテが参加して間もなくアリアカンテ級巨大戦艦トリモグラーIIの初代艦長として彼は現れた。
この戦艦を奪取するのを目的に現れたイスティナ帝国の機甲兵ソウキ5機を相手にグースリーは素手で立ち向かいその片腕と引き換えにテスト航行中の事故で機能の停止したトリモグラーIIを護り抜いたのである。
「おいおい、そんなに畏まらなくてもいいぞ。所詮俺は一線を退いた身、もっともお前がその刀を使いこなせるだけの力量を身につけるまでは俺も安心はできないがな。」
その言葉にハヤテは再び刀をさやから抜こうとする。
…抜けない!!…
改めて自分の未熟さを痛感する。
「闘気だ。闘気を高めろ。そうすれば答えは自ずから出ててくる。さあ、ハヤテ撃ってこい!」
ハヤテは拳と脚を豪雨のごとく打ち込む。
「正拳!前蹴り!肘打ち!裏拳、回し蹴り!……!」
その攻撃の全てをグースリーは、紙一重で躱し、捌いてゆく。
「チェストォ―――――――ッ!!」
渾身の力を込めたハヤテの拳。だがそれすらも払いのけハヤテの背後に回りこみその背中に軽く触れる。
「ふんっ!」
たいした力は入っていない。端から見ればそう見える一撃とすら呼べない一撃はハヤテの体を数十メートルも吹き飛ばした。
「どうした!その程度か?」
その言葉に続いてグースリーはあくびさえしてみせる。
起き上がり膝についた砂を払いながらハヤテは立ちあがる。
「頭で考えるな!魂で突いてこい!」
再び連打を放つハヤテ。
「何でだ?!何故当たらない?」
こうして幾度、ハヤテは攻撃を繰り返しその全てを躱され、あるいは受け止められたのだろうか。
その度にグースリーはハヤテに一つずつ助言を与える。そして…
シィキ=ベレズフォードはふてくされていた。
「ドウシタッテ、イウンダイ?」
フェリアンは、覚えたての共通語を使ってシィキに問い掛けた。元々フェリアンは、アルフォースの人間ではない。その為に普段使う言語は異なっているのは当然である。彼にとって魔法を使って言葉を翻訳することは、そう難しいことではないが、彼の魔法の源が”言霊”である以上この世界で彼の魔法を最大限に発揮するにはアルフォースの言葉をマスターすることが不可欠であるのだ。
「おまえのせいだって」と、シィキは言いたかったがその言葉を飲みこむことにした。
彼の機嫌が悪いのは実はこういうわけである。つまり、サイアに買い物の誘いを受け、シィキとしては二人きりの買い物を想像していたのだが、元々この外出は、フェリアンの“観光”を兼ねたものであったため、当然二人きりにはなれなかったのだ。面白くない訳である。
「自分は、ふてくされてなんていないよ」
シィキは、フェリアンの問いにそう答えた。もっと答え方もあるだろうに、彼は最悪の答え方でしか反応できなかった。そばにサイアがいたために彼の脳髄は半分も機能しなかった。サイアに聞かれていればあまりよい印象を持たれなかったに違いないが、幸いなことに彼女は買い物に夢中になっており聞こえてはなかったようだ。
「あ、これ、かっわいー」
そのサイアが大きな黒ウサギのぬいぐるみを見つけ、遅れ気味についてきているかたちの二人の男…シィキと、フェリアンのほうに振り返る。
視線が自分に向けられたことに気がついたシィキは、即座にサイアの元へ駆け寄る。その速さは異常に速い。仮に彼が100m走に出場していたならば間違いなく9秒をきっていたに違いない。一方フェリアンのほうは今までどうりマイペースで歩いていた。
「ねえねえ、シィキ、この黒ウサギかわいいよね。特にこのへんなんかシィキにそっくりじゃない」
そう言うとサイアはシィキの耳を指でつまんで弄くる。シィキは、半妖精の一族である。そのためその耳は、人のそれと比べ、異様に長い。その耳がサイアに触れられだらしなく垂れ下がる。
「さ、サイアさ!?」
シィキの口は、しばらくそれ以上に言葉を発することができなかった。そして彼はこのささやかな幸せに酔いしれていた。
サイアが彼の耳を弄くるのに飽きた頃ようやく彼も我に返る。
「お、おじさん、このぬいぐるみ下さい。」
次のシィキの台詞はそれであった。店の奥からこの玩具商の主人が出てくる。
「そのぬいぐるみかい?まいどあり!」
シィキは懐から財布を取り出し、ぬいぐるみの代金を支払った。彼にとってはとても大きな出費だったに違いないが、彼は何故だか、幸せそうな顔をしていた。
「アクセルを踏みながらクラッチを繋いで・・・」
ゴン・・・
「カイ、繋ぎはゆっくり!」
今日も瀬戸内=海(セトウチ=カイ)は、教習所で悪戦苦闘していた。規格外とはいえ、ヴァリスゲイヤーは、“駆動”に分類されるため運転免許が必要なのである。これまでに何度か、紛争地域におもむき、戦闘行為を終結させてきたカイではあるが、未だ仮免許の域を脱していなかった。そのためヴァリスゲイヤーのコクピットには急造された教官用のサイドシートがあった。
「ほら、ぐずぐずしない。エンジンかけて!」
教官・・・衣笠 サチヲの声にカイはキーをまわしエンジンをかける。
ド・ド・ド・ド・ド・ド・ド・・・
72基のマツダ製ロータリーエンジンが一斉に動き出す
その日、ヴァリスゲイヤーは戦場からから消えた。
「あの機体は?…」
ベル=ファーシェスは、未確認の機体を検索するためコクピット内のコンソールパネルに触れた。
SFS−AT001ZB
検索結果から分かったのはその形式番号のみであった。新型のアームド・ルーパーのようだ。しかしベルの機体…E=BRAKERのコンピューターが形式番号だけではあっても認識することができたため、その機体がE=BRAKERの開発時には既に設計されていたものに違いない。
「新型…」
西暦2270年代人類が地球と呼ぶ惑星の衛星軌道上に人工の大地…スペースコロニーを浮かべ、そこでの暮らしが始まってから既に1世紀近くがたつ。この時代、表面的には平和が維持されてはいたが、人々の心と暮らしには、いつも暗い影が付きまとっていた。
S.F.S(Special Force to Stop fighiting)…それはあらゆる戦闘行為を阻止するべく組織された民間の軍隊である。かつて第5次世界大戦の危機が迫っていた時それを阻止したといわれる今となっては伝説と加した組織“レッド・クルセイダース”を母体とし誕生したS.F.Sは、アームド・トルーパーと呼ばれる人型の巨大兵器を大量に保持し地球圏で起こったあらゆる戦闘の火種をその圧倒的な軍事力をもって制圧していた。結果的に外見上の平和は維持されていた。しかし、S.F.Sの存在は人々を脅えさせ、政治、経済には無言の圧力がかかっていた。自らは戦争の火種となり得ないことを示すために、企業、政治組織などあらゆる組識はS.F.Sに大量の融資を行わなければならなかったのだ。ただ一つの組織、反S.F.Sを掲げる“グランド・クロス”を除いて…
新型の素の機体はまるで純白のE=BRAKERと対を成すかのごとく漆黒に塗装が施されていた。
ZERO=BRAKER。それがその新型のコードネームである。その機体はE−brkerの破壊を目的とし、再設計された。E−brakerの設計者マクドガル=ファーシェスはSFSからその機体を奪取し逃亡、そしてグランドクロスに所属していた彼の娘ベルにその機体を託したのである。
「あの機体…速い!!」
ベルは黒きその機体の攻撃を紙一重で回避し反撃の体制を取る。
漆黒の宇宙空間に加粒子ビームの閃光が交差する。
「ちぃっ!」
その閃光の一筋がE=BRAKERのシールドの一端をかすめた。ほぼ互角の闘いに見えた戦闘は徐々に均衡が崩れつつあった。
その時、2機の装甲兵器の丁度真ん中の空間にに異変が生まれた。それは黄色と黒のストライプをもった球体。急激に膨張する球体が2機を包み込んだ時、ベルの意識は闇へと沈んだ。
不思議な浮遊感、自らの肉体すら感じることのできないその灰色の世界にベルは白く光る人影を見たような感覚を覚えた。
「ママ…なの?」
どこか暖かく、懐かしい光。それは、いつもベルが側に感じている存在であったことに彼女は気付いてはいなかった。・
・
・
「夢?」
ベルはコクピットの中で目を開いた。見えない力が彼女の肉体を支配していた。
「!!重力があるの?」
コンソールパネルに手を伸ばし機体周囲の状況をチェックする。省電力モードになっていたモニタのいくつかが目覚め、外部の世界を映し出した。
地平線の存在がスペースコロニーの内部ではないことを示している。黄色い砂塵が風に踊っている。「砂漠…アフリカ?それとも西アジアエリアか?」
知識のみの、実際に彼女の見たことがない場所を呟いてみるが、何かが違う。言葉に言い表せない違和感が付きまとっていた。再びパネルを操作し、地図ソフトを起動させ、位置の確認のコマンドを実行させた。
…該当なし…
ベルは混乱していた。
記憶をたどり、レコーダーを確認するが現在の状況と記憶、記録ともにつながりを見つけられない。
「何が起こったの?ここは一体…?」
応えてくれるものは居ない。ただレコーダーに記録されていた彼女自信の声『ママ?』という問いかけだけが妙に気になっていた。
「止さんかい!ワシャ、戦うつもりはないんじゃけん!聞こえとるなら返事をせんかい!」
そこでは、86メートルの大型の機体と、16メートルの小型の機体が戦っていた。
いや、小型の機体による一方的な砲撃が、巨大な機体に浴びせられていた。『貴方の機体の識別はSFSのもの。ならば、あたしの敵っ!!』
小型の機体、E=BRAKERの容赦無い砲撃が、ヴァリスゲイヤーに浴びせられる。
「SFSってのは何なんじゃ!ワシャわからんのんジャ」
後退りをしながらヴァリスゲイヤーのコクピットで瀬戸内=海(せとうち=かい)は悲鳴のように叫んだ。
前方向バリア“W・I・P・E・R”が、E=BRAKERの砲撃を弾いてはいるが、徐々に2体の間合いは詰められていく。
『コラッ、カイ!後方確認を忘れない!!』
瀬戸内=海の横に座る教習教官の衣笠 サチヲがブレーキペダルを踏みこむ。
ヴァリスゲイヤーはガックンと音をたて後退を停止する。
カイの眼前にエアバッグが広がり、海の顔はそれにたたかれる格好になった。「痛ーっ!何しよんジャ、ワレ!」
その間にE=BRAKERは、よりヴァリスゲイヤーに接近する。
『もらった!』
ベル=ファーシスはためらうこと無くE=BRAKERの背中のヴァインダー(総合武装収納システム)からキャノンを取り出しそのトリガを引く。
高密度の加速粒子の光が“W・I・P・E・R”を突き破りヴァリスゲイヤーの外装甲に直撃した。
加速粒子の弾は内部機構まで到達し、ヴァリスゲイヤーの爆発に巻き込む…はずだった。『うそっ!?』
そう、冗談のような話ではあるがヴァリスゲイヤーはほとんど無傷の状態でそこにあったのだ。もっとも紅い塗装が少しはげてはいたのだが。
「廣島のマツダ工業の技術をなめたらいけんのんジャ!!」
陽光がヴァリスゲイヤーを照らし出しその装甲は眩しく輝いた。一部を除いて。
PPPPPPPP
と、その時2体のコクピットで警告音が鳴り響いた。
「なんじゃぁ?」
『何?』
黄色と黒の球体が二機の頭上に唐突に現れ、破裂した。
『あれは…』
「ありゃぁ確かワシが…」
赤い人影が、その中から現れ、落ちる。
「くそったれ!」
罵声が終わるか終わらないかの内に、カイのヴァリスゲイヤーは巨大な、ライフルをその人影…ヴァルキューレ・ロートに向ける。
「養生せんかい!」
Zooonnnn!!
巨大なライフルの銃身から<それ>は放たれた。
『何考えてるのよ!』
言うか早いかエル=ブレイカーのキャノンは放たれた<それ>に照準をあわせ、光を放つ。
そして、<それ>がヴァルキューレ・ロートに命中する前に光の銃弾は<それ>を貫いていた。
「だーっ、なにしよるんじゃぁ、ワレ!」
ヴァリスゲイヤーの放った<それ>…人命救助用友愛装備“救命弾”は、見事に爆発し、落下を続けていたヴァルキューレ・ロートは、ニュートン力学に従いそのままアルフォースと引き合い、接触した。…要するに落ちたわけだ。
『あいたー。どうなってんのよ、まったくもぅ。』
ASX004・ヴァルキューレ・ロートのパイロットアルティノ=イングラム=ワールシュタットは、奇跡とも言える確率の賭けに勝ち、無傷だった。
『ヘルメット…たまには役に立つのね』
それは彼女が出撃するとき鬱陶しいことを理由にかぶりたがらなかった物だが、これで彼女を助けたのは二度目ということになるのか。
『…また、古風なロボットね。博物館じゃないみたいだし…』
動力炉の出力は、40%。ワームホールエンジンの状態としては決して良い値ではないが、暴走の危険はきわめて低い。それを確認すると彼女はモニターを切り替えヴァリスゲイヤーを見て呟いたのだった。
「だ、大丈夫か?」
『パイロット…生きていれば良いのだけれど』
ほぼ同じにカイとベルがそう言った。
はじめて意見が一致したようだが…
『貴方、「大丈夫か」って、何をしようとしてたか覚えてるの?』
ベルはヴァリスゲイヤーに向かってそう言う。
「ワシぁ、助けようとしたんじゃ邪魔したんはワレじゃ!」
『どういうこと?SFSの人助けなんて聞いたこと無い!』
二機、いや二人の戦いは再開した。
口喧嘩で…
『あの…すいませんが、ここ何処です?』
危険がなさそうなので、コクピットから出たアルティノは、あきれたような声で二人に問い掛けた。
「…」
『…』
その問いに答えるものはいない。
『まずは、それから調べましょう。知らないところで戦死しても仕方ないでしょう?』
と、アルティノ。
『そうも言ってはいられないようね。』
「何じゃ?ありゃ?」
ほぼ同時にカイと、ベルは、その敵意に気がついていた。
何時の間にか遠くから機械とも生物ともつかないような人影・・・冒険物語に語られるような西洋の小鬼ゴブリンをそのまま巨大にしたようなそれが近づいてきていた。
「ありゃ、話の通じん相手みたいじゃけぇ、ワシがぶちのめしたる!」
『見かけだけで判断するなんて・・・なんて人!?』
『だけど、彼の直感、当たってるわ!』
アルティノの言葉のどおり、それ・・・カオティックアーマーは、その時すでに3機に向かって巨大な岩を投げかけていた。