1−2
(何っ、敵の援軍か!?)
新たな機影を確認したフェリアンだったが、彼は今できる事がない。愛機ローエルのシステムは調整を終えていなかったためだ。
新たな機影の数は二機。そしてその一機は空を飛んでいるようだ。
「へぇ〜、用意周到な事で…」
苦笑混じりにそう呟くフェリアン。合計5機。しかも新たな二機の動きは明らかに先の3機のものよりは良い事が、見て取れる。
「そろそろ動いてくれても良いはずなんだけど…」
操縦席内部のパネルに示された時間はすでに経過しているはずであったが未だ彼の愛機は沈黙を守っていた。苛立ちをこらえきれずに、フェリアンは、搭乗席の内壁を、蹴って八つ当たりするが、どうなるものでもない。
「おい、そこの白いのっ。動けるんだったら早く逃げなよ。こいつ等は、自分とそこの鳥が何とかする。」
通信の指向性から、その言葉は新たな機体のうちの地上を歩いてきたものからのようだった。自分に向けられた言葉らしい。紫色を基調としたその機体は、機体と同じくらい巨大な剣を携え、ローエルの横を摺り抜け、先の3機…機甲兵ホーンへと切り込んで行く。シィキ=ベレズフォードの駆る機甲刀神「ブレード」である。
(なんだか分からないが助けてくれるみたいだな。あの二機、結構動きはよさそうだし、こいつの起動までつないでくれたら…)
そんなことをフェリアンは考えてみる。
そしてもう一機―――空を駆ける機体、ハヤテ=アシュフォードのグランウィングは…
「くっ、なんてスピードだっ!」
自分の機体の高すぎるスペックに毒づきながら、戦闘形態グランバスターへと変形し、舞い降りる。予定地点より飛びすぎてしまったが、この場所なら敵を挟み撃ちにできる。
「鳥っていうな!シィキ!!!」
言葉とほぼ同時にグランバスターはホーンの一機に後方から殴りかかる。不意を突かれたホーンが、地面に倒れた。
「ますは、一機!」
「白いのっ、動けないのか?」
次の標的へと目を向けながらハヤテは問い掛けたが…
ガシッ
ホーンに乗る黒機士不敵にに笑みを浮かべた。「こいつ、まだ…」
ハヤテが殴り倒したホーンが、グランバスターの脚部ににつかみ掛かっていた。
「素人がっ。」
別のホーンが動きを止められたグランバスターに巨大な斧を振り下ろす。
金属と金属が激しくぶつかり合う。「つっ!」
機体が激しく揺れ、ダメージがハヤテに“痛み”としてフィードバックされる。痛みをこらえつつ、掴み掛かっているホーンを振りほどこうとするハヤテだが、正面のホーンの執拗なまでの攻撃をしのぐことで精一杯だった。
「”救援”、ごくろうさま〜♪」
そう聞こえた次の瞬間グランバスターは拘束から解き放たれた。
眠りから目覚めた、白銀の機体―――ローエルが、そこに立っていた。
「くっ、助けるつもりが助けられちまうとはなっ」
苦笑混じりにハヤテが言葉を漏らした。
「さてと、誰に喧嘩を売ったか教えたやるよっ」
フェリアンの駆るローエルは、“言霊剣”ソードオブエレンティアを構え、二機のホーンと対峙する。
一方別の一機のホーンを相手にシィキのブレードは苦戦を強いられていた。
「実に良い機体だね。だが乗り手が素人ではこの私の敵ではないのだよ」
片膝をつくブレードの前に圧倒的な優位を示す者が止めを差さんとし、巨大な斧を振り上げていた。黒光りする機体の肩に龍のマーキングが施されている。
「ウェストリア王国黒機士ガルス小隊の手にかかって死ぬことを誇りに思うのだな。」
「食らえ!
極炎・龍焼撃ぃぃぃぃぃぃぃぃぃl」
巨人の戦斧に炎がほとぼしり、ブレードに振り下ろされた。
火、非・ひ、ヒ・否… |
首が飛んだ。
機体からオイルが吹き上がる。
「…馬鹿な!なぜ私が…こんな奴に」
驚愕、そして震えるがガルス
首をなげつける紫色の巨人
「死ね。」
不気味なほどに落ち着いたシィキの声(止めてくれ、自分はこんなの望んでいない)
声にならない言葉。
ブレードの剣がホーンのコクピットを貫いていた。その目は鮮血のように赤く光りを宿し。
「お喋りは、地獄にいってからしようね…」
(死んだの?殺してしまったの?なぜ?)
心の暗闇をさまよっていたのはシィキの心だった。
混沌がシィキの肉体を支配し、ブレードのブラックボックスCコンバーターが起動した。そして真紅のオーラがブレードを包み脅威のパワーを生み出す。その前には仲間、味方などいない。総てを破壊するまでブレードは、シィキはとまらない。そう見えた。
だが、
グォ―――――――――――ン
機甲神ブレードは、天に向かって咆哮する。この紫色の機体とシィキ=ベレズフォードを支配する異質なる存在“混沌”の勝利の遠吠えか、それとも、支配に精一杯抵抗を示すシィキ自身の悲しみの慟哭か。
しかし、ブレードの宿す赤い光は、消えた。
機体が機甲神と呼ばれるように成る時に付けられた新たなるシステムが起動し、ブレードは完全に沈黙した。
「我が国の盟友の領内での戦闘、見過ごす訳にはいきませんね。もっともこれ以上の戦闘を止めるというのならばこちらも何もするつもりはありませんが。」
その通信は唐突に来た。
その言葉に、ハヤテ=アシュフォードは一瞬手を止める。もっともそうでなくとも彼の前の敵はもはや戦闘能力はないに等しい。フェリアンのローエルと共にグランバスターは二機のホーンを圧倒した。ようやくグランバスターの“癖”に慣れたハヤテと天才フェリアンの前に元々スペックの劣るホーンは相手にはならなかったのである。
だが、ハヤテが手を止めたのは、勝負がついたためというよりかは、この唐突な通信の声に気を取られたからだ。「ルーン=フォルナっ!」
「その名で呼ばれるのも久しぶりですね。お達者なようで何よりです。
ハヤテ=アシュフォード君。」
通信の声は緩やかにしかし鋭さを秘めそう応えた。
「貴方方が、われわれに賛同しないのは残念ですが、
私は、いや我が国はあなたがたと事を構えるつもりはありません。
もっとも貴方方がこの場引いていただければの話ですが…」「てめぇ、人の妹さらっといて
よくもぬけぬけとっ!?」「誤解があるようですね。ハヤテ=アシュフォード君。
ミカゲさんは、自らの意志で我が国へこられたのですよ…」
青く塗装された三機の機甲兵“ソウキ”はゆっくりとハヤテたちのほうへと足を進める。
「貴様の言い分が、
通用すると思っているのか?」その男はハヤテにとっては不吉の前触れでしかなかった。ハヤテの故郷イシュタルの壊滅をそれとなく予言する言葉を吐き、彼の妹ミカゲ=アシュフォードと共に姿を暗ました。この男こそイスティナ帝国の新たなる皇帝ハルト=ミヤモトであった。
「口で言っても貴方には分かっていただけないようですね。
仕方ありません。」その声と共に彼のソウキの左右の機体は剣を構える。
「なんか面倒なことに成ってきたなぁ〜」
事情を知らないフェリアンはそうつぶやいた。
「もう一度だけ言います。引いてください。
その機体を葬り去るのは惜しいではありませんか」ルーン…いや皇帝ハルトはそうハヤテに言う。
「くどい!」
ご・ご・ご・ご・ご・
大地が揺れた。
「ヘイ、アシュフォ〜ド!そのへんにしとこうや。イスティナと問題起こしたら、ジジィの姫さんこまるで。」
そしてグランバスターと三機のホーンの間の地面が盛り上がりそこから巨大な舟…トリモグラーUが姿をあらわす。
「チャンプっ!だが、ヤツ等は…」
「…とりあえず、目的は済んだし、おまえの機体もガタガタだぜ。力余ってんならあとで組み手でもすることにせんか?」
「…くっ、了解。」
こうして戦いは幕を閉じた。
戦闘報告#1
グランバスター:中破
ブレード:大破
ローエル:小破
撃墜数
ハヤテアシュフォード:1
シィキ=ベレズフォード:1
フェリアン:1
MISSION
…ローエルの救出…
complete!!