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友愛伝機 ヴァリスゲイヤー

〜第X話 神子のある一日=`

シーン2

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「パスポートが取れない・・・・ならば密航しかない!!」


という結論に達した神子は真廣島空港に向かい衝撃の事実を知る。
 なんとサハラ砂漠隣接国への飛行機、船、大型輸送用駆動の類は全て渡航を中止していたのだ。サハラ周辺での紛争が激化している中、これは当然のことであった。既にパスポートがどうとかの話ではなかった。

「どうしろっていうのよ!このままじゃ海が・・・」


 空港からの帰りの電車の中、じっと動かずに神子は海のことを考えていた。
 自然と流したくもない涙が彼女の頬を伝って流れる。しおしおと後ろの紅葉も枯れたように萎れていた。
 少し腫れぼったい瞼を引き摺り、彼女が途方にくれながら家路につこうとした時、一体の自家用行楽駆動が目に入った。
 その駆動の後ろに楽しそうにはしゃぐ子供達に囲まれ、誇らしげに運転する父親のポスターが貼られていた。背景は明らかに日本國では無くどこかの国の荒野であった。
 

「みんなとわたしとどこまでも」

大きくそうキャッチフレーズが書かれており後はわけのわからないマシンの性能についてずらずら書かれていた。
 神子はその何の変哲も無いこの広告に何か気付かされ、手を胸の前でぎゅっと握ると大きな声で誓い挙げる。

「そうよ!サハラはこの地球上にある!歩いてでも駆動を駆ってでもなんでもいけるはずじゃない!」

 
 みるみる後ろの紅葉が元気を取り戻し、いや以前にも増して瑞々しくその葉を真紅に燃え上がらしていた。
 この言葉は半ば自分に言い聞かすようなものであった。
 しかしそれでも神子は、目的のために手段を選ばなかった現在行方不明である海を思い出しながら家につくまでの三十分間、さまざまな策略を張り巡らそうとしていた。

 夕日が静かに照る・・・まるでこれから起きる嵐を前に沈黙を守るように・・・
 神子がややその髪を怪しく揺らめかしながらぶつぶつと策略を練り歩いていると、自宅であるマンション前に見慣れない車が止まっていた。
 見ると真っ赤な車の側面には

「マツダ」

のロゴが描かれている。
 神子は大して気にもせずに自宅に向かおうとすると、自分の部屋の前にさっきまでの自分並・・・いやそれ以上の怪しさを持った女性が立っていた。
 十五・六歳といったところだろうか。眼鏡をかけ、子供っぽいひらひらのレースのついたピンクのスカートに不釣合いなほど大きなリュックを背負っている。

「あらあらおかしいわねぇ・・・この時間帯っていったら、神子さん絶対家にいるはずなのに・・・・・・」


 女性はなにやら独り言を呟きながらインターホンをすさまじいスピードで何度も押しつづけている。
 急に女性が神子のほうに向き直った。
 思わずびくっとあとずさる神子。
 女性の牛乳ビンの底のような眼鏡がキラリと光り、無言のままものすごい早足で神子に接近してきた。

「な・・・なに?」


 神子の恐る恐るの問い掛けをよそに、彼女はあらゆる角度から神子を調べ始め

「ふむふむ」

やら

「なるほど」

等と呟いている。
 最後に写真を取り出し神子と見比べている。
 女性の左の眼鏡には写真に映し出された人が、右の眼鏡には眉をひそめ不安顔の神子が映っている。
 驚いたことにその写真の主は神子であった。

「何で私の写真を・・・」


 彼女は神子の言葉を聴くか聞かないかの内に人差し指を神子に突き付けにやりと笑う。

「貴方、厳島神子さんね!」


 満足げにそう言うと神子の返事も待たず背中からリュックを取り出し、なにやらごそごそ始めながらしゃべる。
 怪しげにリュックの中身をひっくり返しながら背中越しに彼女は自己紹介を始めた。

「えーあーごめんなさいね、突然やってきて。申し後れました。あたしマツダで総務してる津田って言います」


「はあ・・どうも・・・?・・・・」


 勢いに圧倒されながらも生返事で神子は答える。
 一瞬ピタッと津田さんの動きが止まった、どうしたのだろうと神子が横から覗き込もうとする、刹那!

「ぱんぱかぱーん!!」


 突然津田さんはリュックから神子の目の前へ竹竿についた大きな玉を突き出し込み入れた。
 にっこりと笑うとその玉の下についた紐を引っ張る。
 大きな玉は真っ二つに割れ、中から

「祝!モニター当選!!」

と書かれた垂れ幕と大量の紙吹雪が舞い落ちた。

「おめでとうございます。貴方は我がマツダ社開発中の汎用人型友愛原動機付き装甲ヴァリスゲイネのモニターに選ばれました!」


「はあ?」


 思わず間抜けな声を出す神子。津田さんはてきぱきと割られたくす球を片付けるとリュックから分厚い本を取り出し、呆けたままの神子に手渡す。

「はいこれ参考書!貴方駆動の運転免許持ってないのも調査済みなの。話、もうつけてるから明日朝九時免許センターに行ってテストと実技講習受けてきてね」


 あっけに取られどおしの神子もこの事態に気付き反論する。
 元より彼女は他人に何か言われて動くのが嫌いな性分である。何かしらの勧誘、訪問販売の類は話は聞いても決して同意をしたことが無かった。

「な・・・何で私がそんなことしなくちゃならないの!」
 思わず出てきた声だけに月並みな反論しか浮かんでこない。
 津田さんは

「ふむ・・・」

と小さく呟くと眼鏡を中指で押し上げる。そしてそのまま後ろに振り向くとリュックから分厚い何かの本を取り出すと物凄いスピードで読み始めた。

「ちょっと!聞いてるの!?」


 聞いてない。
 半ば呆れつつ、それならばと神子は抜き足差し足、自宅に戻ろうとした。

「ストォーーップ!!」
ビクッ
 津田さんの言葉に驚き、彼女に背を向けたまま直立不動になる神子。
 ゆっくりと神子に近づきながら津田さんは神子に語りかける。

「はぁ・・残念ね、こんな良い申し出断るなんて。ヴァリスゲイネに乗れば世界中どこでも国境なんてお構いなしなのに」


 彼女の眼鏡が再びキラリと光る。夕日を背に怪しさ倍増だ。

「例えば・・・・其処がサハラ砂漠でも」


「何でそんなこと知ってるの!?」


 彼女の視線を断ち切るように勢いよく振り返る神子、顔に驚愕の色は隠せない。
 思ったとおりの反応に津田さんの顔に笑みが零れる。獲物が餌に飛び付いたのを確認した顔に見えた。
 なおも津田さんは話を続ける。

「たった今届いた貴方の調査書読ましてもらったよ。貴方が友人の海君追ってサハラに行きたがってるのはもうわかってるんだから、これって渡りに船っていうよね」


 そういう彼女の顔は先ほどまでの少女とは違い二十五・六の大人の女性に感じられた。

「う・・・」


 まったくその通りだが神子としてはここで認めてしまうと負けたようでなんとなく気分が悪い、だが津田さんの言うことももっともである。
 そんな神子の心の葛藤をよそに津田さんは元の十五歳の無垢な笑顔で付け加える。

「明日免許センターで待ってるからね。別に嫌だったらこなくていいよ、今晩よく考えて結論を出しておくのね」


 それだけ言うと津田さんはマツダのロゴの入った車に乗り込みさっさと帰ってしまった。
 後に残った神子は呆然と立ち尽くし、少しの間去ってゆくマツダの車を眺めていた・・・・・が、ふと変なことに気が付いた。津田さんはきちんと免許が取れる歳だったのか。嫌そんなことはどうでもいい。
 軽い現実逃避をしながらもふらふらと自宅に戻る神子であった。

 はむ・・・これで何個目のぷよまんであろうか・・・神子はお茶をすすりながらぷよまんを食べている。
 目の前にある分厚い参考書を読みながら・・・・・・
 結局、神子はテストを受けることに決めたのである。
 家に帰り、考えを整理してみるとそれがサハラ砂漠に行くためのもっとも早い道であることは明確であった。それでも、なんとなく人に勝手に進むべき道を決められたようでやや釈然としなかった。
 しかし、考えれば考えるほど四の五の言わずモニターとしてヴァリスゲイネに乗り込み、早々にサハラに向かうことにしなければならない。神子は決心を決め深呼吸するように大きく息を吸い込むと

「そうと決まれば話は早いわ!」


と隣の住民に聞こえるくらいの大きな独り言を呟き、猛然とまずお茶とぷよまんの用意をしてからゆっくりと参考書を読みふけりだしたのである。
 ・・・それにしては一晩で覚える量ではない、だが彼女にはそれしか選択肢が無く、覚えては忘れていく数々の単語や標識を気合と根性で繋ぎ合わしていた。
 参考書のページをめくってはノートにそれらをまとめた物を書き留め、座椅子にもたれかかってはぷよまんを頬張っている。地道な、しかし着実な前進は夜を徹して行われた。

「やっぱり来ると思ってた。そんな嫌そうな顔しなくてもいいよ?これが貴方にもあたしにもベストな選択なんだからね」


 今日はスーツ姿で笑顔を絶やさない津田さんを前にセーラー服姿であからさまに嫌な顔をした神子がいる。理屈ではわかっていてもやはり嫌なものは嫌である。

「・・・・・駆動免許がないとどうにもいかないんじゃどうしょうも無いでしょ!」


 一睡もしてないのか目の下には大きなくまがあり、気合と根性で紅葉状に結い上げた髪が針のように鋭く立っていた。

「まったく非常識だよ。たった一晩でこんだけ覚えろだなんて」


 神子は軽い怒りを込めながら毒づいた。

「で、受験票も何も無いけど試験って受けれるの?」


 スーツの襟元を正しながら津田さんは答える。その姿は七五三を思わせた。

「本当はこの汎用人型友愛原動機付き装甲っていうのは今までの規格に無いのね。海君の乗ってた友愛駆動も規格外だったからあんなでたらめな免許試験してるでしょ!」


 そう言いながら津田さんは傍らに置いてあったリュックに手を伸ばし、少しぐしゃぐしゃになった紙切れを取り出した。

「ほい!受験票!筆記なんてすぐ終わるからパパッと受けて実技講習に行こう」


 神子は少々不安顔でそれを受け取ると胸の前で握り締め、すう、と大きな息をつく。

「よーし!いってくる!気合で合格してやるんだから」


 グッと拳を握り、強い笑顔を神子は浮かべると受験案内にしたがって教室に走っていった。
 後姿の神子の背に津田さんがどこからか(リュックから)取り出したメガホンを手に神子に檄を入れる。

「大丈夫!あたしがどんな手使ってでも合格させてあげるから安心して赤点でもなんでも取ってきてよね!」


 神子は振り返り、にっと笑いながら親指を突き上げると津田さんも会心の笑みでビッと親指を突き上げ返した。

 流石に新規格だけあってだだっ広い教室の中、神子は一人で座っていた。
 目の前の問題用紙をじっと見つめ開始を待っている。
 開始の合図がかかった。
 神子は勢い良く問題の最初のページを開く。
 後は何も覚えてなかった。
 唯気が付くと終了の合図と共にペンを置く自分の姿があった。

 

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