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友愛伝機 ヴァリスゲイヤー

〜第X話 神子のある一日=`

シーン1

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 ある初夏の週末、廣島市市内、誰もが思い思いの週末を楽しんでいる。あるものはその青春を謳歌し、またあるものは家族とのふれあいを大切に時を過ごしていた。
 紙屋町駅で市電から友達とともに降りた厳島神子も古くからの友人瀬戸内海が旅に出たため日々に多少の張り合いをなくしてはいたものの、例にたがわずそのウィークエンドを楽しむ・・・はずであった。

「みこーまってよ〜♪」


足早に歩く神子の紅葉のように結い上げられた髪を目印に、宮島 アキは前を行く友を追いかけていた。

「最悪!1時間も遅刻しておいて!」


信号待ちをしながら神子は振り向きもせずに言う。

「メンゴメンゴ。昨日ゲームしながらばたんきゅうしたらもう昼過ぎだったんだもん。仕方ないじゃない」


「寝坊しておいて仕方ないとはなかなかやるな・・・」
あきれながらもころころと子犬のようについてくる友を、神子はそれ以上咎める気にはならなかった。
 アキが遅刻するのは今に始まったことではない。しかし、このまったく悪ぶれたところのない態度にいつも神子は誤魔化されてしまうのであった。

「ちょっトイレいってくるね」


アキは言い終わるのが早いか既に姿を消しており、仕方なしに神子は街路樹に凭れ掛かりながら何とはなしに流れていく電光掲示板を眺めていた。

「ねえねえそこの彼女、今暇なの?さては暇なんでしょ!」


「ヘーイ其処の君!なんなら俺の車でドライブしないかい?」


「ヘイ!ベイベー!俺と茶でもシバキ上げないかい?」


 道行く人々の中、元より容姿端麗な上、長い髪を真っ赤な紅葉のように結い上げた神子は取り分け道行く人々の目を釘付けにしていた。実際何人かの男どもが神子に声をかけ、殆どの者は相手にもされずすごすごと立ち去り、更に食い下がった残りのものは・・・

「うっさいんじゃこらぁ!」


神子の豹変した態度と突き刺さるようなアッパーで宙に打ち上げられていった。
 男達の小山が出来上がり、ようやく静かになったなどとぼんやりと思いながら神子は再び掲示板のほうへ目をやる。
 取るに足らない事故、遠い国の紛争の模様、つまらないスキャンダル、さまざまな情報が次々と流れていく中、一つのニュースが神子の目に飛び込んできた。
ーーーーーーーーサハラ砂漠にて邦人二名 行方不明ーーーーーー
 一瞬、神子の髪が大きく燃え上がるように見えた。瀬戸内 海という名もヴァリスゲイヤーという名前もどこにもない海が今どこに行っているのかも知らない。ただ神子の勘が何かを感じ取る、海の身に何か起きたと。
 気が付けばニュースの発信元であるテレビ真廣島に既に駆け出していた。

「メンゴメンゴ神子おまたせ〜♪ってあれ?」


小走りに帰ってきた宮島 アキは見慣れた友を探し周囲を見渡すが、其処はただ衝撃波が通った様にえぐれた道があるだけで友の姿はなかった。

 テレビ真廣島編集局、お茶を置きながら女子社員は外の景色に目をやり、その目を細めるように言う。

「平和ですねぇ」


「ああ・・なんかこうガツンとくるニュースの一つでも駆け込んでこないもんかな」


南向きの窓を背にお茶をすすりながら編集局長は女子社員に答える。どこまでも・・・どこまでも平和な時間であるはずだった。
 刹那、編集局のドアが強い力で歪み弾け飛ぶように宙を舞う。局員全員がドアのあった場所に目をやったときには既に背後で一人の少女が編集局長の胸蔵をつかみ、局長の頬がワンテンポからツーテンポ遅れてついてくる程激しく揺さぶっていた。

「何じゃおいコラあれは?あぁん?」


少女はわけのわからないことをわめき散らしている。局員は皆ポカンと口を開けたままそれを見ていた。
 局長が泡を吐きながら気を失うのにそれほど時間はかからなかったが、少女は気付きもせずその手を緩めなかった。

「誰か助けんでいいん?」
誰とは無しに出たこの言葉で皆、われに帰る。

「おお!そうじゃ誰か助けんにゃ」


「でも誰がいくん?」

「やっぱりここは柔道やってる田中君に・・」


「何でわしがやらんにゃいけんのんじゃ!」
少女を尻目に

「少女追っ払い係り」

を押付けあう大人達。その終局はあみだくじを用いることにより近づいていった。
 やがて其処に一人の勇者が誕生した。勇者は右手にものさしを携え、一つ大きな深呼吸をすると怪物に向かって朗々として哮る。

「やいやい!其処の化け物!俺が相手じゃ!ってこっち見るなよぉ!編集局長、今この私 比良めがお助けします。んでボーナスお願いしまっす。おい!其処の化け物!こっちは労災に入っとんじゃ!ちょっとやそっとの怪我何でも無いんじゃけん帰るんなら今のうちで!」


比良という名の勇者は仲間に背を押され、死地へと足を一歩一歩進めていく。助けるべき我等が局長はその勇士を見ることすら出来ず力無く怪物のされるがままとなっていた。
 十分に間合いを詰めたと感じた民衆は一層強い力で勇者を押し飛ばす。

「おおおおおおおぉぉぉぉ!」


勇者は雄叫びとともに怪物の、髪を紅葉の様に結い上げたその頭にものさしを振り下ろした。
ゲシャ!!
鈍い音が一つ響いただけで静寂が周りを覆う。勇者がものさしを振り下ろすより早く、獣の拳が勇者の体にどこまでも深くめり込んでいた。勇者はそのまま崩れ落ちるかのように前に倒れこむと、その役目を終えただ静かに眠り始めた、その表情には後悔の欠片もなく

「あぁ・・・やっぱりだぁ・・・」

という己の宿命を予期していたかのような安らかなものであった。
 局員たちは仕方なく少女に目をあわさぬように気をつけながら、次の贄が自分ではないことを祈りながら通常の業務を始めた。

 三十分後、出されたお茶を一気に飲み干した少女は

「え・・へへぇ・・ご、ごめんね!」


と言い残し去っていった・・・・・・・が、顔には

「何の用でここにきたのか忘れちゃった♪とにかくごめんね!」

と書いているかのようであった。

 家に帰った神子は座椅子に座り、お気に入りのぷよぬいぐるみを抱きながらお茶をすすってはぷよまんを、本人いわく

「ぷよのように瑞瑞しいお口」

に頬張った。至福の一時である。
 ふと何か面白いことはないかとTVをつける。なにやらニュース番組のようである。

「サハラ砂漠・・・行方不明・・・?・・・・・・あっ!!!」


ぐしゃぁ!
神子の抱いていたぷよぬいぐるみが4つ繋がりもせずに弾けた!
 TVの前の神子を他所にニュースキャスターは淡々とニュースを読む、やや業務的な悲嘆の顔を浮かべながら。

「・・・・・・・・・になった事件で行方不明者の身元が判明しました。衣笠サチヲさん25歳、瀬戸内海さん16歳の二名が以前行方不明、発表によりますと二人はサハラ砂漠への観光旅行中に何らかの事件に巻き込まれたものと考えられています。サハラ砂漠は現在紛争のため入出国の制限が依然しかれておりますが、この二名の入国経路はわかっておりません。以上報道デスクの真宅でした」


 神子は息を飲み少し震えていた。流石に昼間あれだけの運動をしただけにすぐに飛び出すことは無かったが体を動かさない分悪い考えばかりが頭の中をよぎっていった。

「・・・もしかしたら海がついに人を殺して逃げ回ってるとか・・・いや、きっとどこかの国の新型爆弾とかでヴァリスゲイヤーごと宇宙まで吹っ飛ばされたとか・・・だめ!いくら海でも生身で宇宙空間じゃ三日ともたないじゃない!」


 時には宇宙人の襲来、又あるときは巨大な地底都市への召喚、たくさんの妄想が神子の頭に現れては消えていき、それが宇宙戦争規模になった頃

「ふう・・・馬鹿らし」


とつぶやき、とりあえず寝ることに決めてしまった。

 次の日、何はともあれサハラ砂漠に行くことを決めた彼女は学校に行き、休学する旨をつたえ、市役所にパスポートを取りに行った。

「どういうこと!?そんな悠長に構えてたら海が死んじゃうじゃない。何でパスポート一つとるのにそんな時間がかかるの!」


窓口のお姉さんは引きつった笑顔を浮かべながら受け答える。右手は既にグーになり、辛うじて左手でそれを抑えているようであった。後ろで課長がはらはらしながらこっちを見ている。

「で・・・ですからパスポートの所得には申請から三ヶ月の時間が必要で、い・・・今すぐというわけには・・」


「ケチ!してくれたっていいじゃない!おばさん」


ガシャーーーン!
 何かが崩れる音がした。
 お姉さんは口を半開きにして少し呆けたような表情になっている。瞳孔が針先のように窄まっているのがわかった。
 そのまま悲劇のヒロインのようにスロウモーションでがっくりとうなだれるお姉さん、粉々に砕けたプライドを自ら踏みにじり神子に食って掛かる。

「若けりゃいいってもんでもないでしょ!若けりゃ!どうせ私は今年で28です。四捨五入すれば30よ!30!わかるこの気持ちが!同期は当に結婚して子供もいるわ!

「あなたもはやくいいひとみつければ?」

なんていわれるのよ!どうしてどうやってこの男ばかりの職場で売れ残れるわけ?そりゃあ私だって美人とは言わないまでもいいセンくらい行ってると思うわ!男どもは

「誰かいい子紹介してよ」

なんて言うしさ・・・・はあ・・・・もう人生どうでもいいって感じ・・・」


お姉さんは見事に自分で自分の首をしめ、机に突っ伏し少し苦笑しながら呟いた。

「はは・・・涙も出ないわ」


バァン!彼女の後ろで机を激しく叩く音が響く。彼女が振り返ると其処には入所二年目の三原君が立っていた。

「福山さん・・・知りませんでした。福山さんがそんな気持ちだったなんて・・福山さんはバリバリのキャリアウーマンで僕のことなんか相手にしてもらえないと思っていました。きっとだめだろうからって諦めようとしていました」


 三原君は優しく思いのたけを述べながらお姉さんの・・・いや窓口のお姉さんではない福山 世羅の手を取った。

「こんな僕ですが結婚を前提にお付き合いしていただけないでしょうか!」


 さっきまでの青筋バリバリな彼女とは違い、純朴とも言える少女が其処に立っていた。

「そ・・・そんな三原君・・・私のほうこそ何時か貴方と一緒に本通りを歩けたらなぁって・・・でも年増なんていやだろうと・・・」


「そんなことありません!そ・・・それなら福山さん・・・・・」


 もう其処には言葉は要らなかった。彼は彼女をしっかと抱きしめ、彼女は彼の胸の中、その瞳を涙で潤ましていた。
 空間に薔薇が漂う・・・抱きしめあう二人から放たれる余剰エネルギーが視覚確認できるほどの強い障壁を生み出す!

「うぐ・・・!は・・・入れない!」


 二人だけの世界に圧倒されつつも神子は果敢に語りかける。

「ぱ・・・・ぱすぽーとぉ・・・うわあああぁぁぁ!」


 一瞬にして二人の愛という名の障壁と空間に流れる薔薇に押し出されるように神子は市役所の外に吹っ飛ばされた。

「い・・たた・・」


腰をさすりながら起き上がると相変わらず強い結界の張られている市役所を睨み付け

「・・・へえぇ・・・!おぉしぃあぁわぁせぇにぃぃぃぃ!!!」


手短にあったポストを引っこ抜くと力一杯投げつけた。しかし、あまりの高速により空気抵抗で赤熱したポストでさえも、結界の表層すら破れずに其処に行き着くまでにぼろぼろに砕け散っていく。
 おそらく何人たりともこの障壁内には近寄ることは出来ないだろう。
 当分の間、この空間閉鎖は開かれそうに無い。
 がくっとため息をつく神子、目の前の壁を見ながら元気なく呟く。

「・・・はぁ・・だめか。パスポートは諦めるしかないか」


 神子は一人途方に暮れながら歩くのであった。

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