3-2
「・・・ここでもないのか。」
漢は、友との約束を果たすため、遥か西の大地に来ていた。拳と拳をぶつけ合うその為に。
そう言えば聞こえは良いのだが・・・この漢の名前はチャンプ=ヴォルフレイム。ハヤテとの修業に付き合う約束をして飛び出したのだが、結局迷子になって一ヶ月。彼は極度の方向音痴だった。ルオン峡谷は、ウェストリア王国中央都市例シールの東側に位置する峡谷である。そこは古代文明の遺産が眠る地だった。機甲神ドラグーン・ツヴァイの元となった設計図が出土したのもここである。その名前の由来は、かつてコロニー戦争の時代に戦った英雄のから取られたものであるが、今となってはそれを知る者はほとんどいない。
漢は大地を背にし、空を見あげる。雲一つない深い空色。その先には、人類の母なる地、地球があるに違いない。
が、
ぼんやりと見詰めるその空は、突如として暗雲に覆われた。
「こ、こいつはいったい、どうなってんだよ」
暗雲は空の頂点で渦を巻き、その中心からそいつは現れた。この地に再び異分子がやってくる。
タイガーホール。誰がそう言いはじめたのかそいつは黄色と黒の縞模様をした、謎の“穴”だった。ZOOOON!!
タイガーホールが弾けそこから何かが現われ、近くに落ちたらしい。
「近けぇな。」
漢は飛び起きて、落ちてきた何かの元へと走り出した。その速さは正に疾風だった。
「ってーな。畜生!いったい何だって言うんだっ!」
ブトータイガーの操縦席でタイガー(本名:暁 虎雄)は叫んだ。
「燃え尽きちまった。何もかも。そうだ。真っ白な灰だけが残るのさ・・・」
虎雄の言葉を聞いてか聞かずか、ブトーチャンプの操縦席ので矢吹 徹は、自らの拳を開き掌を見つめている。
二人は現役の格闘技の覇者である。虎雄はムエタイの、矢吹はボクシングの。「誰だ!!」
いきなりチャンプはそう叫んだ。
「ヘッ、俺を知らねぇとは、おまえ、モグリだな!」
コックピットハッチが勢いよく跳ね上がり、金色の髪の男が飛び出した。そしてそのまま加速した蹴りをチャンプに放つ。
カーン!
何処かでゴングの音がした。
シャッ!!
紙一重で金髪の漢、タイガー(本名:暁 虎雄)の飛び蹴りをかわし振り向きざまにコブシの一撃を放つチャンプ。
パンッ!!
しかしタイガー(本名:暁 虎雄)も突き出された正拳、足の甲でなぎ払う。
両者はお互いの目を睨み、次の一撃のために構える・・・が、
チャンプの頬からは一筋の赤い血が流れ、タイガー(本名:暁 虎雄)の手首のバンデージが弾け跳んだ。「なかなかやるなっ」
ほぼ同時に二人は同じ言葉を吐く。
ハヤテ・アシュフォードは、風を感じていた。そう、特にするべき事の無い時、彼はこうしてデッキに出て風を感じている。風の王の下その娘達が思い思いの喜びをダンスにする。それぞれの歌の音色は違うが、それは不思議と一つのハーモニーを奏で上げている。とても心地が良い。
ハヤテは、深く息を吸いこみ目を閉じた。(!?)
別の歌が聞こえたような気がした。
狼の遠吠えのような透き通る力強い響き。(チャンプ・・・・か・・・?アイツこんな所までで来てたのかよ)
三月も前から“迷子”になっていた紅毛の拳士の名前にたどり着く。
(放っておいても別に良いんだがな・・・)
一瞬そんな事が頭によぎるが、チャンプもハヤテの仲間である事に間違いはない。それにこうまで強く“気”を感じる事が出来ると言う事は彼の身に何かが起こっているのは、ほぼ間違いはないだろう。
「仕方ない。」
一言呟くと、彼は、風に身を任せた。
浮遊感。そして・・・「グランバスター、来いっ!!」
その言葉に呼応し、格納庫から彼の愛機が飛び立った。
その際、整備をしようとしていたメカマン、カリエス・ライシスが振り落とされたのは、これから起こる事と比べほんの些細な事に過ぎなかった。
あれから20分の間チャンプ・ヴォルフレイムとタイガー(本名:暁 虎雄)の“死闘”は続いていた。二人の力は拮抗し、お互いの次の一手を読むかのごとく睨み合っている。見た感じでは、圧倒的にチャンプが不利のように見えなくも無い。なにせ彼の体は顔面を含めいたるところ痣だらけなのだ。
対するタイガー(本名:暁 虎雄)はほぼ無傷と言っても良い。しかし、それは見た目に過ぎない。
最初の一撃を除きほぼすべての攻撃をクリーンーヒットで受けているチャンプだが、彼の顔にはまだ余裕の笑みがある。そしてタイガー(本名:暁 虎雄)は、チャンプの異様なしぶとさに決め手を欠き、自らの攻撃を放つ事で消耗する事を免れてはいなかった。カーン。
第4ラウンドが終わった。
「なんてタフな奴だっ!!」
リングのコーナーに見立てた岩に腰掛けタイガー(本名:暁 虎雄)は、はき捨てるようにいう。
「だがな、次のラウンドで必ず決めてやるぜ!!」
だが、立ち上がろうとする彼を矢吹 徹が制した。
「何か・・・・来る!!」
黒い影が、そこに近づきつつあった。
PPPP
(通信?・・・か。どこから?)
ハヤテは、回線を開く。
『こんな所でお会いできるとは、奇遇ですね。ハヤテ・アシュフォード君』
「ルーン!!」
モニタに浮かぶ男に向かいハヤテは叫ぶ。
『奇遇ついでに、太刀合わせをお願いできませんか?』
「何!?貴様、何が目的だ!!」
『「奇遇ついで」では理由になりませんか?それに私と闘う理由は貴方の方にあるのではないのですか?』
確かにその闘うわけはハヤテの方にあった。故郷を滅ぼしたイシュタルの悲劇は、事実はともかくルーンの手引きではないかとハヤテは考えている。だが
「断る!」
ハヤテは、はっきりそう言った。
『おや?珍しい事ですね。いつもなら貴方の方から・・・』
「悪いな。俺もそんなに暇人なわけじゃないのさ」
『・・・怖じ気づいたのですね・・・』
そこまで言われて黙っているハヤテではない。
「クッ、ならば望みどおり戦ってやる!!ポイント2010だ。そこで片を付けてやる!!」
それは偶然だろうか?その地点はチャンプ達がいる場所に他ならなかった。