それは、何の予兆もなくやってきた。いや、正確にはその予兆に気がついたものがほとんど居なかったというべきであろうか。
とにかく、それ、つまり異星人はやってきたのである。
一ヶ月くらい前。
「お疲れさま〜」
舞台裏から一人の少女が、タオルを持って幕のおろされた舞台へ駆け寄った。
「ありがと、アイちゃん。」
芋虫怪人は、タオルを受け取りながら着ぐるみの首から出ている女性の顔を拭いた。
「舞台の上って照明があたって結構暑いんだよね。早くシャワーを浴びたいわ。」
芋虫怪人・・・じゃなくて、その中身の人、ヒトミは、そんな事を言っていたらしい。
彼女たちが、楽屋に戻って来たのを確認するや否や男は、立ちあがる。
「サイコーだったぜっ!!」
と熱く言った。
「マネージャー、それ、誉め言葉になってないわよ。」
ボソリとつぶやく声は、色黒の女性のものだった。どこか薄暗いこの楽屋でその女性は、柱にもたれかかっていた。
「そうか?」
マネージャー、大加美 厚司は、その女性マナミの方を向きたずねる。
“MUTEKISS”。それがヒトミ、マナミ、アイの3人がつくるデビューしたてのアイドル?グループだった。そしてそのマネージャーが大加美である。プロダクションが零細なためかマネージャーの手腕が悪いのか、彼女たちの仕事は、今回のようなきぐるみをきての怪人、素人でも出来そうなエキストラの仕事だったりとまともな仕事が無い。ルックスも悪くないし、歌もおそらく現在活動中のアイドル歌手なんかよりも上手いのだろうが・・・
「だいたい、なんで怪人なわけ?、あたしたちの初舞台だって言うのに・・」
「仕方無ぇだろ!仕事とってくるのも大変なんだぜ!」
「だからって怪人はないでしょ、怪人はっ!」
ヒトミと大加美の口喧嘩は今日に始まったことではない。仕事が終わる度いつもこんな調子である。二人とも熱血で売っているような性格で引くことを知らないのだ。そして大概このあたりでマナミが止めに入るのが定番となっているのだが、
「二人とも、その辺にしときなさい。いい年してみっともない。」
と、いった具合に。
「ねぇ〜テレビ見てもいい?」
二人の口喧嘩にもう慣れてしまっているのか、アイは、我関せずといった態度をとっていた。
「好きにすれば?」
素っ気無くマナミが返事をする。
嬉しそうにアイはテレビをつける。そこに映し出されたのは・・・”宇宙警察サイヴァン”子供向けの特撮ヒーローものである。
「こんなの何処が面白いのかしら・・・」
そう言って、マナミは、シャワールームへと向かった。
アイは、テレビに食い入るように画面を見始めた。
それから20分
次回予告の途中、画面にノイズが入りその後
『我々は宇宙帝国アルガウス。地球に対し宣戦布告をする!』
テレビのスピーカーから聞こえる声はそう言っていた。
「あれ?」
首をかしげるアイ。
しかし、他に事の重大さに気がつくものは居なかった。
そして・・・一月が過ぎた今
アルガウス帝国の地球侵略作戦が始まった。
トーキョーPM3:00
いつもとかわりの無い人々の生活は突如として、壊された。
アルガウス帝国の兵器”機甲魔獣サラマンドル”の吐く炎が家を人を待ちを焦がしていく。
逃げ惑う人々。
今日はMUTEKISSの初コンサートだった。
舞台から駆け下り、観客を誘導するマナミと、マネージャー大加美。
「も〜、なんでこんな事になちゃったのよ!」
マイクを舞台に叩き付けると、ヒトミは機甲魔獣へと向かって駆け出した。
「私たちのコンサートを台無しにするなんて許さない!!」
はっきりいって無茶である。全長30メートルもある巨大な兵器を相手に生身の人間が向かって行ってもどうなるものでもないだろう。しかし、ヒトミはそうせずには居られなかった。
・・・と、言うかむしろ、頭に血が上って見境無くなっていると言った方が正しい。
「ヒトミちゃ〜ん、ガンバ〜!」
ヒトミの無茶な行動に気がついてはいるものの、混乱しているアイは彼女に声援を送っていた。
何とか観客の誘導を終えた大加美と、マナミは、ヒトミの姿が見えないことにようやく気がつく。
「アイ、ヒトミの奴は何処いっちまったんだっ!」
「え、ヒトミちゃんなら、怪獣をやっつけにいったよぉ〜」
アイは、まだ混乱しているらしい。
「くっ、
「世話が焼ける!マナミ、アイを連れて逃げろ!俺はヒトミを探してくる!」
「O.k.マネージャー。」
そのころヒトミは・・・
「ぜぇーーーーーーーーーたい許さないんだからね!!」
降り注ぐ炎を、かわして走っていた。恐るべき幸運と言うか、主人公の特権と言うか、なんだか良く分からないが、とにかく彼女は、かすり傷一つ無いまま、機甲魔獣サラマンドルの足元まできていた。更に驚くべきは何処で拾ってきたのか弓矢を持っていた。そして機甲魔獣に向けて、矢を次々と放っていた。多分全然効果はないと思われるが・・・
「も〜、しぶといんだから〜」
「ヒトミぃー!!」
そこへ、トレーラトラックで現れた大加美。
「ヒトミ、乗れ!」
戦闘天使サイキョーンよん
CM
戦闘天使サイキョーンよん
「ヒトミぃー!!」
そこへ、トレーラトラックで現れた大加美。
「ヒトミ、乗れ!」
「マネージャー、あたし、逃げないっ!」
運転席から飛び降りた大加美は、ヒトミの元へ向か・・・わずに、トレーラーの荷台へと走った。
「誰が逃げろっつったんだ?おまえが乗るのは、こいつだっ!!」
大加美が、荷台をこぶしで殴り、コンテナを壊すとその中には、どうやって入っていたのか巨大な人型が横たわっていた。
「わぉ!マネージャー!!こんなのどっから持ってきたのよ!」
「話は後だ!」
そう言うまでもなく、ヒトミはその人型ロボット“S1”に乗り込んだ。が・・・
「えーっと、どうやって動かせば・・」
コックピットにあったのはマイクが一本。
「決まってんだろ!歌え!!」
「?」
「歌だ!」
なんだか良く分からないではいたが、ヒトミは言われるままに歌いはじめる。
「た・ち・あ・が・れ〜たちあがれ〜立ち上がれ〜♪」
歌声に合わせるように立ち上がるS1.
(なるほどね♪歌ったままに動くのみたいね)
そしてそのまま20メートルの巨人S1と機甲魔獣サラマンドルの戦いが始まった。
ゴォォォォォォォ−−−−−−−−
サラマンドルの吐く火炎がS1を包み込んだ。
「くじけないわ〜私は元気〜♪」
S1の周囲に見えない力の場が生まれ、火炎を防ぐ。
そして
「空高く舞い〜鋭いキック〜♪」
グォーーーン
S1の文字どうり鋭い飛び蹴りを食らって、よろめく機甲魔獣サラマンドル
「今よ〜必殺〜・・・・♪ 」
そこでヒトミの歌は途切れた。
(必殺・・・・)
「マネージャー、必殺技はないの?」
「馬鹿!歌がを止めると・・・」
ブンッ
サラマンドルのしっぽがうなり、動きを止めたS1にあたる。
「えっ!?」
S1は吹き飛び、ビルに激突した。
ズズズズズズーーーーン
ビルが倒れる。
「くじけないで〜、そうよ、まけないの〜♪」
ゆっくりと立ち上がるS1
アルガウス帝国の侵略に良く分からないまま立ち上がったS1とヒトミ。地球を救えるのは今のところ君しか居ない。
頑張れヒトミ!歌えヒトミ!
つづく
次回予告
初めての戦いを何とか終え、普段の生活に戻るヒトミ。そんな時、MUTEKISSにかつて無い大きな仕事が舞い込む。そして、その中またもや現れるアルガウス帝国の戦闘兵器。地球の平和のために立ち上がるMUTEKISSは新たなる力を手にする。
次回戦闘天使サイキョーンよん「サイキョーン」
ご期待下さい。
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