「済まないね。本当なら見捨てられても文句は言えないのに。」
「いえ、貴方はグランドクロスに欠かせない人ですから。」
月と地球の間を漂う3機のAT(アームドトルーパー)のすぐ近くに、よく見ると3人の人影があることに気がつくだろう。SFSの要塞グランロートの奇襲作戦に失敗した、グランドクロスのエースパイロット、ベル=ファーシェスとウィッグ=アームネック。そして彼女等を救出するために来たグランドクロスの新米兵士。
現在、ベルのE=BRAKERと、ウィッグのSLAY=JASTICEヘネルギーの補給中である。
「オレッチはどーでもいいいんか?」
「失礼しました。」
ウィッグの皮肉めいた台詞に新米兵士・・・まだ十代になったばかりであろう彼は、慌てて敬礼して見せるが。無重力の中バランスを崩してくるくると回りはしめた。
「うわぁ・・・たすけて」
「くくっ、慌てんなって。」
軽く噴き出しながらもウィッグはパイロットスーツの腰のスイッチを入れ、新米兵士のところまで行き、彼を受け止めてやる。
「さぁ、帰りましょ・・・えっ!?」
「ありゃ・・AT・・・飛び方からすると味方・・・じゃないな。」
「そうね。」
「おい、新米。補給状況は?」
「えっと、今終わりました。」
「ベルちゃん!」
「ええ。」
お互いに頷くと二人のエースパイロットは自らの愛機に乗り込む。素早くパネルを操作し、ATの眠りを呼び覚ます。
「貴方は、帰って。報告をお願い。」
「自分も戦えます。」
「足手まといだ。帰れ!」
「報告も重要な任務よ。お願いだから言うことを聞いてちょうだい。」
「わ、分かりました。では御武運を・・・」
3機のATはお互いをマニュピュレーターで押し、その反動で離れて行く。アフターバーーナーの光は漆黒の宇宙では目立ちすぎる。なるべく敵機に位置に悟られないための行動である。
「フッ、やはりな。」
漆黒の機体の中で彼は、呟く。
「早速、このZERO=BRAKERの実戦テストにつき合ってもらおうか。」
男は、トリガに指をかけ、ろくに狙いをつける様子もなくそれを引いた。
だが、発射されたビームの光は確実にSLAY=JASTICEを捕らえていた。
「ゲッ、マジ?」
ビームは電磁フィールドで四散したが、普通なら気づかれるはずの無い場面での一撃である。
「今のは挨拶にすぎない。いくら隠れようが私には分かるのだよ。」
「ば、馬鹿にしやがってっ、謝ったって許さねぇぜ!」
急速に加速し、黒い機体へと向かい飛びながらウィッグのATは、マルチラフルを乱射する。
光弾と実弾の入り交じった、SLAY=JASTICEの攻撃。大抵の相手は、これだけで方がつく。いわばウィッグの必殺技であった。
だが、
「子供だましですね。」
荷粒子の束は、残らず電磁フィールドによって弾かれ、実弾はことごとくプラズマセイバーで切り裂かれた。
「まだ終わりじゃぁ無いぜ!」
SLAY=JASTICEも又、腰からプラズマセイバーを抜き、切りかかる。
キューン!
プラズマの干渉波は、電磁波に乗り通信回線に割り込んだ。
光の剣が、幾度も交差する。
「ちっ、押されてんのか?」
戦場での迷いは、必ずと言っていいほどミスを生む。その言葉の次の瞬間、SLAY=JASTICEの腕が切断されていた。
「SHIT!!」
「呆気ないですね。では、止めを刺して差し上げましょう」
ZERO=BRAKERの背後から、数十機の何かが飛び出す。
「パニッシユッ!」
それらは、あらゆる角度からSLAY=JASUTICEに襲いかかる。
「この攻撃・・・」
装甲が切り刻まれ、内部メカが露出し、オイルが、玉となり飛び散る。気体各所に爆発が始まった。
「ここまでか。」
ウィッグの乗ったカプセルが、射出された。
「ウィッグ。敵はうってあげる!」
「ヴァインダーキャノンMAXモードチャージ完了」
ベルは、慎重に照準をつける。これを外したら、おそらく勝てる見込みはないだろう。
ヴァインダーキャノンを最大出力で撃つためには、それ相当のチャージの時間を要する。ウィッグはそのための時間を、文字どうり命を掛けて稼いだのだ。
「いけぇーっ!」
電荷をもった粒子の束が螺旋状に渦を巻ながらZERO=BRAKERの背後に迫った。
「勝った!」
ベルが、ウィッグがそう確信した。
「見え見えなのですよ。」
振り向き様にZERO=BRAKERもヴァインダーキャノンを放つ。二つの光は正面から激突し、何事もなかったようにそこで消え去った。
「まさか!ノーチャージなのにっ!」
ベルが驚くのも無理はない。ZERO=BRAKERのスペックは、ATの常識を逸していたのである。敵は、火力において優れるE=BRAKERの最大の砲撃と同レベルの攻撃を予備動作なしにやってのけたのだ。
絶望感がベルを支配した。
続く二撃目の光が、ベルに襲いかかった。
ゆっくりと、迫る光をぼんやりと見つめるベル。
「素晴らしい。すばらしいぞ、この機体!」
敵のパイロットの勝ち誇る姿が見える。
「!!」
ビームは、E=BRAKERの脇をわずかに逸れ闇へと消えた。いや、そうではない。荷粒子の早さ以上の速度でE=BRAKERが動いたのだ。
「なに?なんなの?」
困惑するベルの意思をよそに、E=BRAKER、ZERO=BRAKERと互角の戦いを始めていた。むしろE=BRAKERの方が優勢なのかもしれない。
「馬鹿なっ!スペックが上がっただと!」
「良く分からないけど、見えるわ。」
常人を逸した早さでパネルを操作している自分にベルは今、気がついた。それだけではない。彼女の意識は限り無く広がる。
「ジャッジメント!!」
「ぬぅ!」
雌雄を決する時が来た。
E=BRAKERの装甲が赤熱し、ヴァインダーを腕に装備して突撃をかける。
ZERO=BRAKERも又、二門のヴァインダーキャノンのチャージを終えていた。
が、次の瞬間2機のATは姿を消した。跡形もなく。
「なんだ・・・・?」
ウィッグの問に答えるものは居ない。
「・・・べルちゃん、死んだらゆるさねぇからな・・・」
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