ハヤテ

〜翼の勇者〜
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第4話〜龍の眠る谷間〜

かつて、歴史が終わった場所。
そして歴史が始まった場所。戦士と龍の墓場。
希望はそこでうまれた。

4.1 機甲騎士団

雨が降り始めた。天の恵みは僅かばかりに地面を侵して行く。時折、空の彼方が閃き、少し遅れて打楽器のような音色のビートが響いた。

いやな雲行きだな…

雷鳴が轟き、稲光が遠くに巨大な影を浮かび上がらせた

なにっ!あれは・・・

「ハヤテ、今のは…」

シィキが驚愕の表情を浮かべ叫ぶのも無理はない。

「機甲神…いや、機甲兵に間違いない。」

ケリィもやや浮ついた声色を聞かせるのは、その仮面の奥に驚きの表情があるからにほかなるまい。

1・2…
5機は居る。

機甲兵器の部隊。それは、後に『黒の機士団』と呼ばれるようになる部隊である。
非公式とは言え、その存在の是非を問う会議の翌日にも拘らず、部隊は雷光の下、模擬戦を繰り返していたのだ。

このままにして良いのか?
しかし、今俺たちがすべきことはセレシアルさんの命を救うこと…だよな

ハヤテは、自らの迷いを断ち切るように手綱を振るう

「アヤツらをこのままにしておいても良いのか?」

ケリィは、不満そうに口を出すが、

「人命尊重。今はそれどころじゃないんだ」

シィキらしい答えだった。

「それに、機甲神ジーニアスは、ここにはないから、どうしようも 無いのよね」
とハルカは付け加えた。

「フッ…男なら素手で戦えばよかろうに…」
ケリィの声は車輪と雨音にかき消された。

4.2 刃の複製と騎士

『黒の機士団』の模擬戦、今しがたハヤテたちが通り過ぎていったその場所に騎士は現れた。

ハヤテ君たちの動きを見ようと思っていたのですが、まさかこんな光景に出会えるとは、私は運がいい…
騎士は口元にうっすらと笑みを浮かべる。

ブレードの量産型…差し詰め『エッジ』と言ったところでしょうか…
既に降り始めた雨にその身を濡らすことをためらう様子もなく、騎士=ルーン人呟く。

用意周到ですね。会議に乱入したのはデモンストレーションだったという訳ですか。
ならば、私もルーン=フォルナとしてではなく、真の名を以って動かなければなりませんね。

「ハルト様、風邪をひいてしまいます。早く傘に」
油紙を張って作られた傘を左手に、ルーンあるいはハルトの後方からミカゲ=アシュフォードが声をかける。
騎士は、横目に彼女を見ると、やさしく微笑みかけた。

そして二人の足音をかき消す雨音のように、その姿もまた薄暗い風景の中に溶け込むようにして見えなくなった。

4.3 谷間の洞窟


雨は上がっていたが、日は落ち、闇が世界を覆い始めていた。
かすかに聞こえる水の流れる音と、吹きすさぶ風は、何を暗示するのか。
松明に明かりを灯す。ここから先はいかに自在車両と言えども、その足を止めねばならない。
勇翼人のハヤテは暗闇において視覚を著しく制限される。

自分が先に行く

方向音痴のケリィと、目の見えないハヤテ、女子供と言わざる得ないハルカ以外で考えるならばもはや彼しかいない。

「ワシも先に行く!」

と言いつつ方向音痴のケリィが、勝手にあさっての方向へとどんどん進もうとするのを、ハルカが必死で止めた。

そして、目的の洞窟の前。

この先に希望がある。あの人の命を救うことができる。
そう思えばこそシィキは、ともすれば震えそうになる足を進めることができる。

暗い洞窟の奥へ進むと、足音が周囲に響く。

「しばし待て!」

そそくさと、シィキの前に出たケリィが、なにやら洞窟の壁面を調べ始めた。

「…何か、あるのか?」
「ここには何もない!」

ハヤテの問いにケリィは答えるが、彼がそんな台詞を口にする時には必ず何かあることをシィキは知っている。

「なぁシィキ、松明を貸せぃっ。そして、離れておれよ・・・」

火薬の匂いがする。
ケリィの持つ七つ道具の中には、発破用の装備もあるらしい。

「やはりな」

ポロポロと崩れ去る壁面の向こう側には新たな空間があった。

「巧妙にカムフラージュしていたようだが、このワシの手にかかれば何と言うことはない。」
「自慢はいい。先へ進もうぜ!」

ハヤテの言葉にケリィの仮面の奥の瞳が少し寂しそうに見えた。

4.4 闇に住まうもの

数メートルは地下に潜っているのだろう。ポタポタと天井から雫が落ちてくるのは、川の地価に差し掛かっているからだろう。
キキッ
時折、蝙蝠の鳴き声とは音が聞こえる。そのたびにハルカは怯えたようにケリィのズボンにしがみついた。

カラン…カラカラ…
誰かが、硬い、乾いたものを蹴飛ばしたようだった。
「見るな。」
ケリィが、ハルカの目を覆う。

ハヤテの目は松明の灯だけが頼りの薄暗さでは、音の先を視認できない。だがその様子からそれが何であるのかを理解していたようだ。

白骨。
ともすればシィキも吐き気を催しそうになる。
ハヤテは刀をいつでも抜けるよう柄に手をかける。
シィキは背中の槍を抜き、ケリィも短剣を構えた。
ハルカは、杖を握り締める。
4人は、身構えた。

ガチャリ、ガチャリ…
洞窟の奥から、金属のぶつかる足音が近づく。
半ばさびたような剣を振り上げ、先頭にいたシィキに切りかかる。その人影の数は何体だろう?
重厚な鎧を身に纏い、みな押し黙ったまま。
最初の一撃を、身を翻して避し、松明を投げ捨てると、背中にくくり付けていた短槍を構えた。

槍の枝で影の頭をなぎ払うと、意外なほど簡単に頭は吹っ飛んだ。
カランと、兜が、地面に落ちる。そして兜と鎧の主には頭部が無かった。

「なっ、中身が空っぽじゃないの。おばけ…」
ハルカは震えだした。

4.5 勇気の証

中身のない、がらんどうの戦士たちを前に皆、身構えた。
かつて遺跡を探索し、戻ることのなかった者たちの成れの果てなのかもしれない。
哀れな彼らに倒されれば、ハヤテらもその仲間になるだろう。

がらんどう戦士の剣を最小限の動きで避わし、ハヤテは腰の刀を抜きすれ違いざまに切りつける
しかし、切り裂くことを目的としたハヤテの刀は、金属の装甲を持つ相手にの前には無力でった。

仕方ない。
ハヤテは刀を鞘に収め、こぶしを強く握りなおす。
闘気が淡い緑色の光となって宿った。


夢の翼、あるいは勇気の翼

しまった!!ひとつ逃した!!
さすがのハヤテも一度に二体の敵を相手に余裕というわけにはいかない。
ケリィの姿は見えないが、彼の怒声と短剣の音で、彼も必死で戦ってるのは間違いないと確信できる。
シィキもシィキで、確実に一体ずつ敵を倒している。
「きゃーっ!」
ハルカの悲鳴がした。
一気に闘気を高め、拳圧で敵を押し返し、その隙にハルカのほうに目をやる。
ところが彼女の周囲に敵は居なかった。確かにいったいが彼女のほうへ行ったはずなのだが。
ハルカは、しゃがみ込んで震えていた。

悩んでいる暇はなかった。一応ハルカの安全は確認できたのだし、目の前の敵を倒すことに集中する。闘わなければ生きていけないのだ。
無心に拳を奮う。
闘気の光に照らされ、飛び散る汗は、月夜の蛍のようだった。

戦いは終わった。そして4人はまだ、生きていた。

4.6 考えれど霧は晴れぬ。

「おわったの?」
「もう、大丈夫。お化けは自分たちが退治したからね。」
しゃがみこんで震えていたハルカに真っ先に駆け寄ったシィキは、彼女の背に手を当て、そっと抱き起こした。
「…ほんと、本当にお化け、もう動かないの?」
「大丈夫と言っておろうが!お前は人の言葉が解らんほどアホか!」
突然ケリィが怒鳴った。

…コイツは…よく判らん
ケリィを見詰めながらハヤテは思わず腕組みをしてしまう。そして視線はハルカへと泳ぐ。
…なんでこの娘を一緒に連れて来てしまったんだ?
そしてシィキに…
いるはずの無い黒い肌の妖精。
考えれば考えるほど、三者三様に理解しがたい存在。

「ナニッ!ハヤテがいない。奴はいったい何処へ…」
洞窟の奥からケリィの怒鳴り声が響いた。
自分でも気がつかないうちにハヤテは足を留めていたのだ。
先行するケリィ、ハルカ、シィキ。

…考えるのは俺の仕事じゃ無かったよな。

そう思い直したハヤテは、勢いよく駆け出した。“仲間”の所へ

4.7 遺跡

「ウム。ここは何者かによって造られたに間違いない!」

洞窟はそこからがらりと様相を変えていた。金属とも石ともつかない材質で造られた通路、あるいは廊下。壁に埋め込まれた石のようなものが時折光って見せる。
「当たり前よ。ここは古代人の遺跡なんだから。」
ケリィの断定に、あきれた顔で答えたのはハルカだった。
「古代の人たちは星の世界を旅してこの地に来たと言われているわ。“すごい科学”のでね。」
自慢げに語り続けるハルカ。
「なるほどな。確かに古代人が作ったのかもしれん。だが、そうでないのかも知れん。その真実はワシのみぞ知る。」

なんだか聞いたことがある。シィキはそう思っていた。
確か父さん、いや、モノも同じようなことを…さすがハルカちゃんだね。でも、ケリィの言うこともあながち違ってるわけでもないのかも。
“何事も観測しなければ確定できない。観測した瞬間ににその事象は確定することができる”だったかな。
まぁ、ケリィのことだからどうせいい加減な事言ってるだけなんだろうけど…

二人のやり取りを少し離れて聴いていたシィキはそこまで考えるとハヤテを見る。
予想に違わずハヤテは“漫画だったら頭に疑問符をつけてる”様な様子だった。

「おい、ハルカ。なんでお前がそんなこと知っているんだ?」
『だって私魔女だもん」
今までハルカが魔法使いである事実をハヤテは知らなかった。
魔法使いは総じて賢者である。魔法、あるいは魔道は。高度に錬られた“知”と“智”により行われる。“知”によって現在をとらえ、“智”により未来を創造する。その結果が奇跡とも見える超常現象として発現するのだ。“知”と“智”を極めるため、あらゆる学問を修めたのが、魔法使いもしくは魔女である。

4.8 扉を破る者

通路はそこで突き当たりとなっていた。
例によって、ケリィが無言のまま壁を調べると、巧妙にカムフラージュされていた扉を見つけ出す。
「…おじちゃん、なんか書いてあるよ?」
確かに目を凝らせば文字らしきものが書いてある。
しかし、それはハヤテやシィキ、ケリーには意味を教えない。読めない文字。
「『関わり無き者これより先へ発ち進む事なかれ。さもなくば司の法の下により生命の守りの令無へ帰す。』って書いてあるよ。』
『さっすがハルカちゃん。偉い!!」
シィキがハルカの頭をなでているすぐ横でケリィは必死に扉を調べる。
だが扉の鍵はケリィにはどうすることもできない。悔しげにハルカにその場所を譲る。
魔法による鍵ならば、魔女であるハルカが開錠を試みるほうがよい。
「ハルカ=ミサナギの名において命ずる。開けゴマ!!(標準語訳済み)」
眉間にしわを寄せ、額にうっすらと汗を浮かべ、それらしい呪文を唱るが、次の台詞は
「ごめーん。むり。」
だった。

もうこうなれば扉を破壊するより先へ進む方法は無い。
ケリィは後悔した。前のときに火薬を使いすぎていた。手持ちでこのなぞの材質の扉を壊すのはおそらく不可能だ。

しかし、これもまた予定通りである。と毎度のようにケリィは意味なく胸を張った。

「開かないんだな。なら、おれが何とかする」
扉を軽くノックした後、ハヤテは正面を見据え構える。
「ハァァァァ…」
吐き出す息と声に導かれ、全身に気が高まり、彼の背に翼が現れる。

「風牙震空拳!」
引き絞った弓が矢を放つが如く、ハヤテの拳は突き出された。
拳のまわりに風が巻き、竜巻となって、扉を削り始める。
「ダブゥゥゥル!」
続いて腰に当てていた右のこぶしもまた、竜巻を呼ぶ。

横倒しになった二つの竜巻は扉を激しく削る。
空気がきしむ。
そして
風が収まった。

「さ、中に入ろうぜ!」
振り向き、シィキに声をかけたハヤテの背後で扉に亀裂が生じ、ガラガラ音と共に崩れ去った。

負けてはおれん。
ケリィも扉の残骸を握り潰し、自らの力を示そうとしたが、無理だった。

4.9 ワイヴァーン

そこには星空が広がっていた。いや、空だけではない。足元にも、さっき入ってきたはずの扉も消え、視界は星の海に埋め尽くされた。

これは…
ハヤテはとっさに夢の翼を広げ宙に飛ぶ。しかしその必要はなかったようだ。
何もないように見える空間に他の3人は落ちることなく立っている。各々は戸惑いを感じている様子だが、僅かな時間の間に、自分のかれている状態を受け入れたようだ。

「ハルカちゃん、これ…どーなってんの?」
シィキの問いにハルカは首を振って答えた。
「わかんなーい」

その会話に彼女は本当に魔法使いで賢者なのだろうかとハヤテは眉間にしわを寄せて唸りそうになる。

「何か居る…気を抜くでないぞ!」
押し殺したような声の主はケリィだった。何かが足りないながらも、いつも冷静なのがケリィである。
闇の空間に、赤い星が二つ、ひときわ明るく光ったように見えた。
違う。
ドラゴン…!?
星に見えた、赤い光は伝説の魔獣、ドラゴンの瞳だったのか。闇の中に溶け込んでいた黒い体の魔物は、動き出した。

「恐れないで!カムイタイプの量産型よ。自立行動型には法則性があるの。それが分かれば攻略可能なの!」
「ハルカちゃん?」
シィキはハルカの真剣な眼差しを覗き込むように見た。
「えへへ…あたし物知りでしょ」

かつて、戦争があった。星の海に人工の島を浮かべ、そこで人は暮らしていた。島の寿命が尽きようとしたとき、人々は自らの生活圏を奪い合う戦争を始めた。そして島の殆どはアルフォースの海に落ちた。島の落ちた衝撃で、アルフォースは落ちた島を核にし、大地を生み出したのだ。
それは2千年も昔の話である。そして今、再び動き始めた龍の姿を模した機動兵器は、ハヤテたちの前にある。

4.10 逆鱗

苦しい戦いである。
“ワイヴァーン”の鱗=装甲は強固であり、並みの攻撃では傷一つ負わせることが出来ないでいる。
確かにハルカの言うとおり、その動きは法則性を持っていた。一定距離を保てば爪や牙の攻撃は受けることがない。噴出す炎もかわすことが出来る。
だが、それでは何の解決も生まないうえ、炎の熱波はジリジリとハヤテたちの体力を奪ってゆくのである。
「風牙・震空拳とか言ったな。あれを出す体力がまだあるか?」
ケリィは問う。
今のところハヤテ最大の奥義のそれは、ワイヴァーンの羽ばたきに軽く跳ね返される。放つことが出来ないわけではないが、何か策がなければ有効な攻撃にはなりえない。
今は戦闘中、無駄話をしている時はない。ハヤテはケリィに軽くうなずき、次の言葉に耳を貸す。
「逆鱗を狙う。」
逆鱗とは、竜のあごの下にある一枚の逆さに生えたうろこである。伝説によれば、人が触れると竜が大いに怒るという。

迷っている余裕はない。ならば、後はタイミングを合わせケリィの策にかけるしかない。

そう、思う間にもケリィは動いていた。

…この動きは!?
ワイヴァーンの攻撃をギリギリでかわし、腕にセットされたアームボウガンで矢を放つ。
次は炎がくる!?

そう。ケリィは敵の動きを一定のサイクルへと導きつつあった。
こちらが同じ動きを繰り返しさえすれば、敵はそれに合わせてくる。

「何をしておるかぁっ!ハヤテ!」

そうだ。タイミングはこの時しかない
敵の炎の息…それに合わせて俺の攻撃を仕掛ける…

4.11 爆炎真空拳!

今だっ!

俺は、奴の吐く炎の息にアッパーカットで真空拳を放った。
俺の闘気が渦を巻き、炎を巻き込み、そこに火柱が立ち昇る。

そうだ、次の拳で、俺の師、ガンマスター奥儀は完成する。
俺の『気』の属性では決して為し得ない筈の炎と風の最大の技

ダブゥル!
迷わず次の拳は火柱を貫く…

炎と風を孕んだ闘気と熱波は、螺旋を描き、ワイヴァーンの首の付け根に吸い込まれてゆく…

爆炎真空拳
それが奥儀の名前だった。

そうか、そこが逆鱗…か。

高熱と風圧によりその逆鱗は捻じ曲がり、音を立ててワイヴァーンの体から剥がれ落ちた。
その奥には機甲兵器の操縦席とよく似た空間があり、シートの部分に透明な容器に封じられた人の脳と同じ形をした何かが、固定され、無数の配線やチューブが絡みつくようにあった。

「かわいそう・・・」
そう言ったのはハルカだったか。

4.12 命の器

のど元にまで込み上げる嘔吐感。
封じられていた、人の英知の源は、それかろうじて守っていたガラスの容器が役目を果たしきれなくなり崩壊したとき、流れ出し、もはや何の価値もない物体へと変わり果てた。
ハヤテの一撃の結果だった。

そのハヤテも今は力尽き、ケリィの背中に倒れこんだまま寝息を立てている。

ハルカは目を閉ざしたまま、誰にというわけでもなく語った。
「お疲れ様…もう闘わないでいいのよ。…この人は、自分で考えることはもうできなかった。ただ戦う意志だけが、この機械の体ワイヴァーンに吸い取られながらずっと…ずっと待ってたんだよね…これでいいんだよね…ね……」

これが、機甲兵器か?
これが、かつて自分たちを守って闘った機甲神や、父さんの造ろうとしている物なのか?
こんな…こんなものが…
シィキの脳裏をよぎる機甲兵器同士の戦い。ハヤテ駆った機甲神とシィキ自身の父親モノのブレードの戦いに今しがた見た、部品として組み込まれた名も知れぬ人間の残骸と重なり合った。

うあぁぁぁぁぁぁぁっ!

シィキは自分でも気が付かないうちに、叫び声を上げ、動かなくなったワイヴァーンに向かって槍を向け走っていた。

バシュッ!
槍の穂先は鮮やかに飛龍(ワイヴァーン)の首を刎ねた。
赤みを帯びたオイルが噴出し、のた打ち回るようにして、ワイヴァーンは頭のなくなった首を振り回し、最後に青白く光る玉をはき出した。
そして再び動かなくなる。

青白い珠…それが命の器だった。

「私は、生きているのか?」
「当然じゃ。おぬしは生きておる。生きねばならんのじゃ」

「生きねばならない…」
「そうじゃ、お主の力を必要としているものはまだまだ多いのじゃ」

「私の体はもう、一度ならず二度も朽ちたのですよ?その私に何ができるというのですか!ジジィさん!」

「人は、肉体のみにて生きるにあらず、おぬしの魂、それが戻ってきてくれた事こそ希望じゃ」

そこには静かな寝息を立てる四人の若者たちの姿があった。
ハヤテ、シィキ、ハルカ、ケリィ。
彼らは希望である。

「そうですね、わたしーのー、かーらーだーが、役にー立たなくてもー、なんとかぁーなるかもしれませんねー」
間延びし始めたセレスの声は、確かに確信を持っていた。
自分の、自分たちの後継者が、着実に育ちつつあるのはうれしい。
そして、セレスの瞳はすでには自らの歩むべき道を見ていた。

続く

NEXT−EPSODE−

第5話〜龍聖の騎士〜
尽きることのない意志。
掛け替え無き、崇高なもの。
悲劇の螺旋はどこに向かう?

次回 ハヤテ〜翼の英雄〜 
第5話
「龍聖の騎士」
ご期待ください

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