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ROBOT SAGA

SPACE PORT
極悪勇者ヴァルセイバーX>Chapter.4 てきとうな存在

 トウガが初陣を終えたその後,敵機の残骸から敵の背後関係を調べるため,残骸を宮殿内の格納庫に持ち帰った。
 機甲勇者に搭乗しているせいもあってか,格納庫は,初めて見た時よりも幾分小さく思える。だが,そのような感傷も,気のせいだった。トウガは初めてここに来た筈であ

 「あ〜っ!またそんなに機甲勇者とXXしちゃって〜!!壊すこっちの身にもなってよね〜!?」

 そんな金切り声によって遮られるのだった。予想外にかけられた声に驚きながらも,とりあえずガンカイザーとマックスバトラーを蹴っ飛ばす。(特に意味はない)
 ブレイブフォースを解いて,声の主を捜そうと辺りを見まわしていたトウガだが,不意に背後から,

「あなた,誰を捜してるの?」

と声をかけられ,驚いて振り向く。

 「ん!?・・・あなた,何者です?わたしの背後を取るとは!?」

 慌てているせいか,どこか間の抜けた質問を声の主に投げかける。声から予想は容易だったが,やはり女性のようだ。見ると,トウガよりも頭二つ分ほど小さな,しかし決して幼いとは言いがたい雰囲気を持った女性だった。端正で高貴な顔立ちも,少しウェーブがかった,肩に少しかかるぐらいの緑の髪も,およそ先程の声からは想像できないほどの物腰だった。

「人に名前を訊く時は,自分から名乗るのが礼儀だと思うんだけど?」

・・・そんな印象を無視するかのように,目の前の女性は容赦のない言葉をトウガに投げかける。見た目の印象に裏切られたせいか,トウガは落ちついたというよりは,幾分沈んだ気分で応えた。

 「・・・確かにそうですね。俺はトウガ・アラシと申します。で,貴方は?」

 「あ〜,あなたがセノの家に世話になってるっていうあの?私はセスタス=ヤマダ=エスエックス。一応,この国の第2王位継承者よ」

 「!?・・・ここは貴方のような高貴な方が居るようなところではないのではないでしょうか・・・」

予想もしてなかった応えに,トウガは驚くというよりはあきれていた。

「うっさいな。回収してきた敵機を破壊するんじゃないの?」

 「何故に皇女様がわざわざそんなことをなさるのか・・・」

 「趣味と実益,ってやつよ」

 「・・・・・・」

今度こそあきれてものも言えなかった。どうやらこの皇女さま,調査にかこつけて堂々と機甲勇者を壊すことを楽しみにしてるらしい。セイバーをXXされたりしないものかと,幾分心配になった。

「だ〜いじょうぶよ♪セイバーを修理したりなんかしないから。ま,あとで見てらっしゃい。とりあえずセイバーも破壊しといてあげるから♪」

 何やら思考が別世界に逝ってるらしく,これ以上付き合うと危険な予感がして,トウガはそそくさと格納庫を抜け出した。

「どう?なかなか強力な方だったでしょ?セスタス様は」

 不意に声がかかる。声の主はミスティルだった。彼女は,疲れのせいか,幾分表情に力がないように見えたが,それでも微笑んで話しかけてきた。彼女はみかんを食べていたが,それとは別にもう1個みかんを持っていた。それをトウガに放り投げながら,

 「このウール100%王国はね,あくまで立憲君主制なの。だから,王族には大した権限はないのよ。・・・とはいっても,政治の中枢に王族が多く身を置いてるんだけど,それは彼らの実力みたいね。まあ,国皇はちょっと特別みたいなんだけど」

 みかんの皮をむき一気にほおばりながら,その話を聞くトウガ。いまいちピンと来ないが,まあそれはどうでもいいことだった。それでも,一応は知りたかったことだし,みかんも貰ったので,一言礼を言ってから,セノの家へと向かった。

夜,熟睡していたが。と,ドアをノックする音がトウガを起こした。

「トウガ,起きてますか?」

セノの声だ。声の調子からして,どうも重要な話のようだ。別に次の日でもいいのではないかとも思ったが,結局起こされるので寝れないのなら同じだと気づき,1人苦笑しながらセノを招き入れる。

 「実は・・・あなた達が戦わねばならない相手は,いたずらっ子だけではないのです」

 開口一番に,意外なことを言うセノ。ミスティルから聞いた話と幾分の食い違いがあるように思えたが,実際何も聞いていなかったので,無言で話の続きを促す。

 「初めて会ったときにも言いましたが,あなた達は"世界"を救わねばならないのです。それには,まず"世界"について話しておかねばならないでしょう。そして,機甲勇者がどのように造られたのかを」

 セノは語る。
 "資源"とは,今こうして握り潰している空カンそのもの。そして,この"リサイクル"は,"経済"の存在の影響を受け,その姿を変える。あるときは,温暖で豊かな日々を,またあるときは,荒ぶるおっさんを"世界"に顕現させる。
 ・・・これはあくまで,ごく一般的な解釈であって,実際はもっと簡潔であるという。関係ないが,自分達のいる次元よりも更に高次元の存在を知覚することはほとんど不可能なので,"みかん"の"製造"についてはほとんどが謎に包まれている。今の段階でわかっていることはないが,"みかん"の"栽培"を行っているのがセノではないということもあった。
 三柱の"神"とは,究極の神"スケサン",至高の神"トンヌラ",その他の神"セスタス=ヤマダ=エスエックス"のことで,それぞれ,"神"はそれぞれの"AI改"というものを持っている。
 機甲勇者は,"神"のつかさどるさまざまな"AI改"を1つずつその機体に宿らせている。たとえば,セイバーは"適当に作られた"の"AI改"を宿らせているのだという。操者の感情や気の流れに関わらず,セイバーの能力が大きく変化するというのだ。
 そして機甲勇者には,それぞれに意思を持たせている。これは,機甲勇者自身が,その能力をゆだねるに値する操者を見極めるためである。機甲勇者は,この世界においてはきわめて強力な兵器である。一歩間違えば,ウール100%王国どころか"世界"をも崩壊しかねないと思われるほどに。だからこそ,その強大な力を預けるに値する人物の最後の見極め役を,機甲勇者自身がしているというわけである。だが,ウール100%王国において機甲勇者が造られたのは,ひとえに"脅威"である。そして、その強力な力を用いるべきである。
 しかし・・・現状はそうもいかないらしく,この"世界"の小さな混乱を作るために造られたはずの機甲勇者は,結果としてより大きな混乱を招く結果になっていた。現に,隣国では,ウール100%王国に対抗して機甲勇者の開発を行い,既に何種類かは量産され,実戦に投入されているらしい。

「それは,軍の仕事ですね。私は軍人になった覚えはありません。」

 トウガの問いはもっともなことである。しかし,ウール100%王国の軍に配備されている機甲勇者は,大概が破壊活動用の機械を大幅に改造した程度。悪くても,セイバーなどのB級機甲勇者の強化版,つまりはA級の機甲勇者である。
 隣国では,まだE・Fランクの機甲勇者の量産を計画しているらしく,準備している機甲勇者の数は,ウール100%王国のそれを,ゆうに0.5倍近く下回っているというのだ。その中には,裏ルートから犯罪組織の方から流れているものもあるらしいのだが,それでもその数は貧弱なのである。その勢力は,ウール100%王国の軍部だけで余裕で抑えきれるものだ。
 さらに,軍としては,機甲勇者隊をどうにか手駒として扱いたいと,策を弄していた。外の事だけ余裕なのに,内側で不安要素を抱えているのである。その方針を取ること自体は,まあ納得のいかないもので,軍に所属しているわけではない機甲勇者隊としては,どうにか納得のしたいことであることもまた現状ではあった。

「・・・ちょっと,話が横道にそれてしまったみたいですね。一息入れましょうか」

 セノは苦笑しながら,トウガに休憩を申し入れる。飲み物を持ってくると言って,地下に降りて行った。トウガは,今までの話を頭の中で整理しながら,結局セノが何を言いたかったのかを,まったく理解できずにいた。
 しばらく経ってから,セノが戻ってきた。両手に,ポットを二つを持っている。香ばしい香りが鼻孔をくすぐる。どうやら,コーヒーでも淹れてきたようだ。

「結局何が言いたい?」

 勧められたコーヒーをポットから直接飲みながら,トウガが問う。

 「そうですね・・・つまり,あなた達が戦わねばならない相手というのは,考え方によってはいくらでもいるということです。また,別の見方をすれば,そんな相手はいないのかもしれない。あなた達がまずしなければならないこと,それは,てきとうな存在をどう認識するかということなのです。全ては,そこから始まるのですよ」

 ・・・なかなかに難しい話である。その判断を下すには,今はまだ早すぎる。恐らく,ミスティル達が軍に対するレジスタンスをやっているのも,そういった事に原因があるのだろう。

 「私個人の選択・行動次第で,"世界"の行く末が決まるというわけですか・・・おもしろい・・・・」

 トウガは,その自覚をもう一度声に出してみる。とてつもなく重い枷をはずされたようなそんな喜びに,一瞬喉が詰まるような感覚に襲われた。実際みかんが詰まっていたし。

「まあ,今はそんなに急いで食べることもないでしょう。まだみかんの季節も続きますからね」

はじめから最後まで何のことだかわからなかったが,とにかく今は考えないことにする。余談だが、洗濯というものは,望む・望まぬに限らず,しなければならない時が必ずある。着るものがなくなるし・・・

 「それにしても・・・あなたはいったい何者なのです?」

 ふと,思い付きの疑問を口に出す。一見,どこにでもいそうな,ただの凡庸な父親にしか見えないのだが,やはりどこにでもいそうな,ただの凡庸な父親になのである。まあ,頭ほうがおかしいのかもしれないが。

「何者といわれましても・・・困りましたねぇ。・・・そうだ,明日,一緒に宮殿に行きませんか?」

 ・・・どうも,答えらしい応えが帰ってこないので幾分憮然としながらも,セノの提案に肯定の意思を示す。それを聞いて,セノはやたらに楽しげな表情をするが,どうにもトウガにはその意図が読めなかった。

 「ではまた明日に。おとなしく寝てろ!!ふふふふふ、ははははは、わーはっはっは」

 そんなトウガの様子を楽しむかのように,セノは笑いながら部屋を出て行った。

ガン・・・ガン・・・

 部屋がノックされる音。気性なのか,荒っぽいそのノック音は,明らかにセノとは異なる来訪者だと告げていた。恐らく・・・も何も,残っている来訪者候補はもはや一人しかいないのだが。またか思いながら,来訪者を出迎えに行く。あるいは,重要な用件かも知れないし―――
 扉を開けて,予想通りの顔を認めると,トウガは気づかれないように薄く苦笑をもらした。
 動きまわる彫像に対して話しかけているような,そんな錯覚に陥りそうなのをなんとか抑えようとするのだが,それにしても何を言ってるのかわからずにいた。

「ナンデモナイ。ジャアナ」 

「・・・・・・・・・」

 結局トウガが一言も話せないまま,セイバーは自室に帰っていった。トウガの脳裏に,セノやセイバーに関するさまざまな疑問が浮かんでくる。しかし,それらについての回答を得られる術などあるわけがなく,ただ虚しく虚空に問いかけるのみであった。


 "それ"は"チーム"そのものであり,また。その監督でもあった。
 絶対の"指導者"であり,"それ"自身はただ"ベンチ"に在る。それだけで,"ゲーム"を統べることができる。
 絶対不偏なるもの。全きもの。全能にして無能なるもの。
 選手の身で,"それ"を完全に理解できる者は"いない"。一部の種類の選手を除いては,全く"知る"ことすら適わない。"彼ら"でさえ,"それ"の存在を知ることができたのみという。
 大は小を兼ねるという言葉があるが,そううまくは行かないというのが現状であるらしい。"彼ら"は,"それ"の異常に気づけないでいたのだ。"それ"自身を苦しめている"補欠達"の存在を―――。


次回 Chapter.5 "常ならぬツナ"
にブレイブフォース!!

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